オナラはなんでも知っている

 その場所はカプセルを埋めた場所だった。もしそこが啓の担当している花壇ではなかったら、もしそこの場所が赤い鳥の場所ではなかったら見て見ぬふりをしていただろう。だが、その場所は啓にとって大切な場所だった。啓は男たちに向かって一歩足を踏み出していた。冷静になればかなうわけない相手だったが、言葉が先に出ていた。
「そこは大切な場所なんだ。そんなことするのはやめてくれよ」
 啓は自分でもよくこんな勇気があったものだと他人事のように感心した。だがこのガラの悪い三人の男はあからさまに不機嫌そうに啓を見た。
「ほら、お前の後輩だよ」ガラの悪い男の一人が見たことのある男に話しかける。
「やっぱりこの学校はクソだよな、クソ」そう言うとこの学校の先輩だという男が一歩前に出て、啓が植えたパンジーを引っこ抜いて投げつけた。
「お前園芸部だろう。ここの花壇は園芸部が世話してるんだよなぁ」そう言ってまた、パンジーの苗を引っこ抜いて投げつける。「クソだよ、クソ」
「やめろよ!」啓は怒りなのか、怖さなのか体が震え始めた。勝てる見込みのない状況で自分はどうするつもりなのか自分でもわからない。やめろよと言ってやめてくれるのか・・・、どうやったらこの場が収まるのか・・・。『誰か、誰かこの光景を見ていいたら先生を呼んできてください』と、心の中で祈る。
 この学校の先輩という男が一歩前に出て、胸で啓に突っかかる。「ほら、ほら、ほらよ」啓は押されて尻餅をついた。『僕はどうなる、誰もきてくれない。僕はどうなっちゃう・・・』すると・・・。
「あんたちやめなさいよ」
 キリッとした声が響いた。それは女性の声だった。啓が振り返るとそこに同じクラスのゆかりが立っていた。
「あなたたち、やめなさい」
 啓は、『ゆかりさんだ、ゆかりさんが先生を呼んできてくれたんだ』と思ったが、ゆかりの後ろに先生はいなかった。もっと言うなら、誰もいなかった。
「なんだよお前!」ガラの悪い男たちが今度はゆかりに突っかかる。
「園芸部が大切にしている花なのよ、そんなこともわからないの」
「お前そんなこと言って俺たちがビビるとでも思ってるのか」ガラの悪い男たちがゆかりに近づく。