オナラはなんでも知っている

 午後の授業が終わり、下校の時間になると忠彦は誠寿がいないことに気がついた。
「あれ、誠寿は?」
「あれ? 先に行ったのかな」と誠寿がいないことに気がついて英治も周りを見たがすでにその姿はなかった。。
 忠彦は英治に「すぐに追いつくから、ちょっとトイレに行ってくる」と断ってトイレに走る。忠彦は誠寿が英治の言ったことでまだ怒っているのだと思った。誠寿は意外に根に持つタイプでちょっとヘソを曲げたらなかなか元には戻らない。『今回は萌美のことだからしばらくは英治との仲がギクシャクするかもしれないなぁ、それにしては萌美はどうして誠寿と別れたんだろう・・・、誰か好きな人でもできたんだろうか・・・、英治じゃないけど、もしかしたらもう新しい彼ができたのかもしれないなぁ・・・』そんなことを考えながら小便器に向かって用を足していると、人の気配を感じた。隣を見るとまた啓がいた。
『もしかして・・・』忠彦は考えた。『もしかして、友達にでもなりたいのかな?』
「あ、啓君」忠彦は思わず声が出てしまった。
「あっ、うん」名前を呼ばれた啓もびっくりした。
「よく、トイレで一緒になるよね」
「あっ、そうかな・・・」
 それ以上の会話にはならなかった。友達になりたいと思ったのは自分の気のせいか、と忠彦は思った。これ以上何を言っていいのかわからない。忠彦はおしっこを終えてチャックを閉めているとオナラがしたくなった。思いっきり『ブッ』とやれば気持ちがいいのだろうが、ここには啓がいる。軽くすかす事にしようと思って小さくお腹に力を入れて、肛門をゆるめる。『プスー』と出す。すると、驚いたことに啓が急に嬉しそうな顔になった。そして、さらに驚いたことにスッーハッーと深呼吸を始めたのだ。それはまるで自分の出したオナラを吸っているかのようだった。忠彦は気味が悪くなった。
「あっ、ゴメン」
 忠彦は一応謝った。ところが啓は「いいんだ、気にしないで」と言ってニヤニヤ笑った。
 忠彦は気味が悪くなってトイレを出た。
 校舎を出たところで英治達が待ってくれていたがやはり誠寿はいなかった。

 啓は放課後園芸部の部室に行き、バケツ、スコップとジョウロを手に取り正門脇の自分の担当の花壇に向かった。