オナラはなんでも知っている

「どうして?」
「だって、なんか、胸が・・・」と言ってちょっと強調される胸を恥ずかしがった。その時思い切って、「いつか、いつかおっぱいを触らせてね」と冗談めかして言うと、萌美は「もうエッチなんだから、でも、いつかね」と笑ってくれた。
 あの時、誠寿は嬉しさのあまり頭の中がお花畑になったような浮かれた気分を味わった。今その時のことを思い出し、誠寿は自分の手を開いて閉じて、開いて閉じて、まだ見ぬおっぱいに想いを馳せてその感触を想像した。この手に届きそうなおっぱいが三週間前に逃げてしまった。時間が経てば経つほど気持ちに整理がつかない。未練が心の中で渦を巻いていた。
 よりを戻したいと伝えてから二日が過ぎた。萌美からの返事はまだこない。自分から返事を催促したほうがいいのか、このまま待っていたほうがいいのか・・・。萌美は結論を出しているのか、それともまだ迷っているのか。ただ、このまま何もせず待っていると数ヶ月経って『だって、誠寿君あれから聞かなかったんだもん』と自分が何もしなかった事を後悔することになるのではと思い至った。あれだけ好きだって言ってくれた萌美がすぐに大嫌いになるとは思えない。まだ、少しでも自分のことを好きだという気持ちが残っているのなら元に戻るチャンスがあるのではないか・・・。絶対にそうだ、人は人を簡単には嫌いになれない・・・、はずだ。せめて待っているという気持ちだけは伝えたい・・・。思い切ってメッセージを打つ。
『もう、寝た?』
 『ううん、まだ』
 やったぁ。返事だ。返事が返ってきた。
『あのさ、この前の返事なんだけど』
 『うん、あれね・・・』
『どうかなと思って』
 『うん、やっぱり、もう少し待って。まだ気持ちの整理ができてないから』
 まだ、可能性が残っている。誠寿は切れていない蜘蛛の糸に感謝した。
『わかった。でも、これだけは伝えさせて、俺、萌美ちゃんのこと好きだよ』
『おやすみ』
 返事は返ってこなかったが、誠寿は満足していた。

4月14日 木曜日
 昼休みの教室では昼食が終わると生徒は思い思いに寛ぎ、教室内には高校生らしい楽しげな声が響く。