オナラはなんでも知っている

「オレはメアリーと付き合うことになった」
「おぉ・・・」と教室内がどよめく。
 そのどよめきに徳乃真は満足した。
「さぁ、食事を続けてくれ」と言って椅子から降りる。
 離れた席の紫苑もすぐに徳乃真のそばにやって来た。
「まじか?」
 徳乃真は「あぁ」と返事をした。
 教室内は『やっぱりそうなったか』という羨望と妬ましさと諦めの感情が男子生徒に渦巻き、女子生徒からは『メアリーだったらもう手も足も出ない・・・』と敗北を認める空気が漂った。
 そしてみんながメアリーを見た。
 すると当の本人であるメアリーも立ち上がった。徳乃真がメアリーにウィンクをする。
「本当よ。徳乃真からコクられたの」と言ってメアリーは徳乃真を見た。そして、「お試しだけどね」と付け加えて座った。
 その声は小さいけれどよく通り、教室内のみんなの耳に届いた。
『お試し?』
『今、お試しって言ったぞ』
『お試しってなんだ?』
 すると徳乃真がメアリーの言葉を受けてまた立ち上がった。
「今メアリーが言った通りだ。オレ達はお試しで付き合うぜ」
 衝撃的発言だった。
 純粋な何人かの高校生にとって付き合うと言うことは、もしかしたら結婚するかもしれないというそんな真剣な覚悟を持ってのものだっただけに、この二人のお試し付き合いというなんとも軽い表現に度肝を抜かれた。
『徳乃真とメアリー、今私たちはとんでもないものを見ているのかもしれない』
 男子も女子もこの二人の美男美女から計り知れない衝撃を受けていた。
「ねぇ、お試しって何?」メアリーの隣に座る愛美が即座に聞く。
「しばらくって言うのかな、とりあえずって言うのかな」メアリーがにっこりして応える。
 愛美はあの徳乃真と付き合うというのにメアリーのこの余裕に驚嘆した。自分の知る限り徳乃真と付き合うことになった女子は皆浮き足立ち泣いて喜んでいたのに、メアリーのこの平然とした態度。これこそ真似のできない美しさの秘密であるような気がした。それはつまり『メアリーからすると徳乃真といえど平凡な男』ということではないのか・・・。

 徳乃真とメアリーが付き合い始めたというニュースは瞬く間に学年を駆け巡り、また二人はその事を隠そうともせず堂々と振る舞い始めた。音楽室に行く時も、理科室に行く時も、二人は並んで歩いた。