徳乃真にとっては初めての経験だった。絶対的な自信が揺らぐ。世の中にはオレよりも格好いい男がいるのかもしれない。いや、もしかしたらオレの秘密を知っているのか? そんなはずはない。これは誰も知らないことだ。だったらどうして? なぜ返事が返ってこない? なぜ『嬉しい、待ってたの』と返ってこないのだ。確かにたまに返事が遅くなることもあったがそれは相手がちょっとでも自分が優位に立とうとしてもったいつけてるだけだったし、そのことは見抜いていた。絶対的な優位は自分にあった。だが、今回は・・・、もしかしてあり得ないことだがフラれるかもしれない、そんな恐怖を初めて味わった。・・・オレがフラれるのか・・・。
 その時、ピンと着信を知らせる音が鳴った。
 『いいわよ』
 返事が来た時の安堵は想像以上だった。思わず声を発していた。
「おぅ・・・」
 そして、そうか紫苑たちはいつもこんな思いをしてるんだな・・・と同情した。だが、さすがはオレだ、やっぱりオレの誘いを断る女子などいない。所詮メアリーも勿体つけているだけだった・・・と、思った。だがその後もう一度ピンと着信の音がなった。
 『しばらくはお試しね』
 徳乃真はその言葉に衝撃を受けた。『お試し』とは、さすがメアリーだ。今までオレにこんな扱いをした女子はいない。みんな感激のあまり泣いていたのに、メアリーのこの態度に初めて自分と同等というものを感じた。メアリーこそこのオレにふさわしい! 今まで感じたことのない感情が沸き起こってくる。
『面白い。お試し、いいだろう!』
 徳乃真は最後にそうメッセージを送った。

4月13日 水曜日
 学校の昼休み、思い思いのグループを作ってお弁当を食べる時間となった。一つの机に自分の椅子を持ってきて三人、四人が固まって食べているかと思えば、弁当を隠すように一人で食べている生徒もいる。母親が作る弁当ではなく、購買部でパンを買ってきて食べる生徒や、中には彼女が作ってきてくれたお弁当を食べる生徒もいる。
 徳乃真は教室内を見回して、ほとんどの生徒がいる事を確認するとおもむろに椅子の上に立ち上がった。教室にいる生徒が箸を止め何事かと徳乃真に注目する。徳乃真は充実した自信に満ち溢れた顔をしていた。
「みんな、」と声を発し教室内の注目が十分集まり、自分に集中していることを確認すると言葉を続けた。