その夜、シャワーを浴びた徳乃真は自分の部屋に戻ってくると部屋の鍵を閉め、カーテンもしっかりと閉め素っ裸のまま引き出しを開けた。シャワーを浴びた後に毎日行うルーティーンだ。きちんとパッケージされた薬剤を一つ取り出して封を切る、真新しい軟膏のキャップを取り薬を注入する。薬の注入が終わると長い手足をベッドに投げ出した。自分の病気のこととはいえ、毎日のこの治療はプライドを傷つけられた。絶対に人には知られたくない秘密だった。それもようやくあと1週間ほどで終わる。特に三週間前の手術は身震いがするほど嫌な思い出だった。だがそれも誰にも気づかれずに済んだ。こういうことはアメリカに行く前に終わらせてしまわなければならない。
 徳乃真はベッドから起き上がると部屋着を着て携帯を手にとり、ベッドに腰かけた。
『オレが緊張してるのか』自分が信じられない。今までそんなことは一度もなかった。確かに心臓がバクバクしているのを感じる。この感じは中一の時に親の財布からお金を盗み出して、問い質された時に似ていた。
 初めてキスをした時だってこんなにドキドキはしていなかったはずだ、ぼんやりそんな事を思い出していると動悸がおさまり、気分が落ち着いて来た。
 徳乃真は携帯電話のメッセージアプリを立ち上げでメアリーを検索する。
『徳乃真だけど』と入力して、そのまま送信ボタンを押した。
 ピンと音がしてすぐに返事が返って来た。
 『どうしたの?』。
 徳乃真はすぐにまたメッセージを送る。
『オレと付き合わない?』
 メアリーから返事がこない。
 徳乃真は女子に告白して初めて不安というものを感じた。
『・・・もしかするとモテない男というのはいつもこんな気持ちになるのか?』