「お前、そんな言い方しなくても」紫苑が先を行く徳乃真と止まってしまった紗里亜の間でオロオロする。すると徳乃真が振り返って、「お前そこそこ可愛いからすぐにいい男が見つかるよ。紫苑、お前どうだ?」と言った。
「お前、いくらなんでも・・・」
「紫苑、彼女いなかっただろう?」
「お前なぁ・・・」
 徳乃真が自分に一緒にいてくれと言ったのは紗里亜を押し付けるつもりだったのだ。紫苑だって紗里亜は可愛いと思うが、だからと言ってこのタイミングではまとまる話もまとまらない。
「お前さぁ・・・。おいおい、紗里亜も泣くなよ。こんな奴だって知ってただろう。おい、徳乃真、お前行くなよ」
「いいよ、放っておけよ。それじゃ、オレ先行くよ」と言うと軽く手をあげて徳乃真は行ってしまった。
「おい、ちょっと・・・」紫苑は徳乃真に舌打ちしながらも「まぁ、そんなわけだから、ごめんな」そう言って紫苑もその場を後にした。
 紗里亜は分かっていた。いつかはこんな日が来る事を。簡単に捨てられる事を。徳乃真と付き合っていた時だって、愛されていると感じたことはなかったし、一緒にいても徳乃真の心に自分はいないような気がした。現に自分を見ていなかった。自分より可愛い子がいるとその子をじっと見ていた。自分が徳乃真と付き合う時だってこんなふうに捨てられた子がいるという事も知っていた。それでも、本当にこんな日が来るとやっぱりショックだった。やっぱりショックでショックで、悔しくて悔してく、言葉にならないほどの大きなショックだった・・・。
 紗里亜のことを心配して見守っていた同じクラスの女子が紗里亜に駆け寄り抱き起こす。
「紗里亜、大丈夫?」
 紗里亜は泣いているばかりで、友達の呼びかけにも応えられない。友達も紗里亜に大丈夫以外に声のかけようがなく、かと言ってこのままにしておくわけにもいかず、抱き抱えるようにして歩いて行った。

 啓は花壇の手入れが終わるとバケツなどの道具を持って部室に引き返す。すれ違うように同じクラスのゆかりと萌美が帰っていった。
 ゆかりは正門を出たところで美しく手入れが届いた花壇を見た。うちの高校のこの花壇はいつもきれいだ。1年生の頃はなかなか気がつかなかったが一度気づいてしまえば毎日ここを通るときに気持ちが和む。
「萌美、知ってた、ここの花壇いつも綺麗なんだよ」
「うん・・・」