「ちぇっ!」紫苑は徳乃真がこの後紗里亜に別れ話を言うのだろうと確信した。今日徳乃真が宣言した通りだ。紫苑が紗里亜をみると、今にも泣きそうな顔になっていた。
 紗里亜は二人の会話を聞いてますます不安が募って来た。『これではまるで、今から私に、今から私に・・・』
「オレ、お前に話があるんだわ」徳乃真が歩きながら呼吸をするように話を始めた。
「あの、私も話があるの?」紗里亜は思い切って話をするといった感じで声が上づった。
「お前も、何? 先に言っていいよ」
 徳乃真から話を促され、紗里亜は思っていたことを話し始めた。知らず知らずのうちに手に力が入る。
「うん。この前転校生がやって来たでしょう、メアリーって子。すごく綺麗な子。クラスのみんながすごく綺麗な人が転校してきたって言ってて。あの綺麗な人と釣り合うのは徳乃真君しかいないって。でも、徳乃真君の彼女は私だから、そう思ってもちょっと不安になっちゃったりして。だからちゃんと聞いておこうと思って。みんなもそうした方がいいよって言うから」声が震える。
「そう、それなんだよ」徳乃真は自分が話そうとしてい事と一緒だと知り嬉しそうに答える。
「みんなは大丈夫って言ってくれるんだけど・・・」
「そうなんだよ、すっごい美人でさぁ。日本人とスウェーデン系アメリカ人のハーフなんだって」
「それで徳乃真君は・・・?」
「オレさ、お前と別れてメアリーと付き合うことにするわ」
「えっ!」紗里亜は自分の耳が信じられなかった。嘘だと言って欲しい、自分が聴き間違えたかもしれない。なんてねって言うかな? 一瞬でいろんな考えが頭をめぐる。でも、紗里亜が期待したような言葉は後に続かなかった。心よりも体が先に反応する。心臓がドキドキして、胸が苦しくなり、手が急激に冷たくなっていく。
「おいっ、もうちょっとオブラートに包めないのかよ」さすがの紫苑も思わず徳乃真を非難する。
「だからもうお前とは関係ないから、もうオレにはつきまとうな。な!」
「えっ・・・」紗里亜から小さな声が漏れた。自分に向けられた愛のない言葉が胸に刺さる。目が熱い。もう前に進めない。泣きたくないのに涙が溢れてくる。紗里亜はその場に止まってしまった。