「あっ、徳乃真(とくのしん)様が来た」萌美の声が変わり、嬉しさが声のトーンに現れる。
 教室に一人の男子が入って来た。入って来た瞬間教室内の女子がピリッと緊張した。かわいい子も、そうでない子もみんなが自分の身だしなみを気にして、動きが止まりゆかりが入ってきたときとは別の意味で空気が張り詰めた。
「格好いい・・・」
「素敵・・・」
「はぁ・・・」
 女子生徒がうっとりと徳乃真を眺める。
 徳乃真は自他共に認めるスーパー男子で、その容姿は群を抜いていた。身長は185センチ、中性的な顔立ちは女子にしてもいいほどに美しく、顔は小さく整い、鼻筋は通り尖っていた。髪は軽くウェーブして黒というよりも少し茶色がかり、合わせたように目の色素も少し茶色がかっていた。スタイルも良く手足が特に長い。自分たちの身近にこんな芸能人みたいな整った男子がいることが信じられない、そんな男子だった。女子はその姿を眺めているだけで幸せを感じた。
 徳乃真自身も自分の格好良さを自覚しているようで、自分がクラスに入ってきたときの女子の空気の変化を敏感に、そして当然のこととして感じ取っていた。
 徳乃真が自分の容姿に気がついたのは保育園の時だった・・・、いや、物心ついた時には母親や、母親の友達から「可愛い」「可愛い」と言われ続けていたからさらに前だったかもしれない。いつの間にか自分は特別だと思うようになった。そして保育園の時、バレンタインの日に自分だけたくさんのチョコをもらった。小学校の時には女子が自分の前でそわそわし始め、中学になった時にはあからさまに態度が変わった。身長が伸びてあどけなかった面立ちに男らしさが加わると他の男子は誰も太刀打ちできない領域にたどり着いた。携帯の番号をうっかり教えるとたちまち番号は流失した。
『写真をください』
『誰か好きな人はいますか?』
『気になっている人はいますか?』と、顔も見たことのない同級生や上級生らしい女子からメッセージがどんどん来た。そして高校生になると、徳乃真を目当てに高校のランクを落としてまでこの高校に入学してくる女子が現れた。