『チューをする』
『胸を触る』
『さらにその先に・・・』
 彼女がいない彼らは日々妄想だけを膨らませていた。その女子と付き合うための窓口になるのが誠寿のはずだった。それなのに・・・。四人にとってはクラスに徳乃真がいることよりも、メアリーが転校して来たことよりも、徳乃真がメアリーと付き合う宣言をしたことよりも、誠寿が萌美と別れたことの方が大きな大きな、そして身近な問題だった。
「より戻せないのか?」英治が言う。
「うん、絶対よりを戻した方がいい」陽介も言う。
「俺たちも応援するから」忠彦も言う。
 三人は誠寿を慰めた。
 誠寿も「あぁ、頼むよ・・・」と力なく応えた。

 その頃、啓が雑草を抜いていてふと顔を上げると、正門に可愛いい女子が立っているのを見つけた。その子はメアリーがやってくるまで2年生の中で一番可愛いと言われていた紗里亜だった。啓は可愛いなぁと思って見つめるが、それが徳乃真の彼女だと気がついてまた下を向いて草を引き始めた。
 紗里亜は小柄でショートカットの髪がよく似合う小動物のような愛くるしい女の子だった。正門にもたれ、片足を少し曲げて誰かを待つ姿は男子の心を打つ切なさを漂わせている。
 今紗里亜の大きな瞳には不安が漂っていた。『あの噂を確認したい・・・』その紗里亜の瞳が一人の男子を捕らえた。前からやってくるのは紫苑と一緒に歩いてくる徳乃真だ。その徳乃真も紗里亜を見つけて声をかける。
「おっ、どうしたんだ?」
 徳乃真の言葉を聞いて紗里亜の不安が増していく。付き合っている彼女が正門で待っていたのにそれを見つけてかけてくる言葉が『どうしたんだ?』ってどういうことだろう、噂は本当だろうか、でも、でも・・・。
「うん、一緒に帰ろうと思って」紗里亜は一生懸命平静を装って、一生懸命笑顔を作って徳乃真に答えた。徳乃真の隣に並ぶと紗里亜の頭は徳乃真の肩までしかなかった。
「徳乃真、オレ先行くよ」紫苑はこの後に起こる事を想像して、面倒くさいことに巻き込まれるのはごめんだと先に帰ろうとすると、「なんだよいいじゃねぇか」と徳乃真が紫苑の腕をとって引き留めた。
「いや、なんか、嫌な展開になりそうだし」紫苑はあからさまに面倒臭そうな顔をして言う。
「ちょっと一緒にいてくれよ」