4月12日 火曜日
 徳乃真がこのクラスにきた以上の衝撃をもたらしたメアリーショックも数日が過ぎると表面上は落ち着きを取り戻し、クラスの中に徳乃真とメアリーがいると言う異常なことも日常になりつつあったこの日、ついに徳乃真が動いた。
 体育の授業の前の休み時間、女子が女子更衣室に移動し着替え、男子は教室内で着替えを始めた。教室内の男子たちは自分の席で制服のブレザーを脱ぎ、ズボンを脱いでいく。
 高校生の裸体は美しい。ハリのある皮膚と薄い体毛、うっすらした脂肪にその下から浮き出るように筋肉の筋が走っている。太っている学生でも肌にハリがありたるんだ不潔感はない。男子高校生の着替えは躍動する裸体の芸術と言っていい。中でも徳乃真は他の生徒とは違っていた。運動をしているわけではないが、均整のとれたスポーツマンの身体で、胸板もあり腹筋もシックスパックに割れていた。制服のブレザー姿よりも裸の方が魅力が増した。
 その徳乃真が上半身裸のまま椅子の上に立った。185センチの身長が椅子の上に立つのだからその存在感は一際だ。
「みんな、聞いてくれ」
 頭の上から声が降ってくる。クラスの男子が着替えながら何事かと徳乃真に注目する。
「オレは、ここ数日考えていたんだが」徳乃真はそういうと、クラスの男子をぐるりと見回し、「メアリーと付き合うことにする」と宣言した。
 誰ともなく、上半身裸の男たちから「おぅ・・・」という感嘆の声が漏れた。皆当然こうなることはわかっていた。女好きの徳乃真がメアリーに手を出さないわけはない。でも、出して欲しくない。でも、出すだろう。それがいつなのか。ついにその宣言が今日出されたのだ。これによりメアリーと付き合えるかもしれないと蜘蛛の糸ほどの希望を持っていた男子は奈落に落とされた。この感覚は芸能人に「恋人です。お付き合いしている人がいます」と言う宣言に似ている。自分では付き合えないことはわかっているが、誰かのものになって欲しくない、蜘蛛の糸でも可能性が残っていて欲しい。そんな感覚だ。
『やっぱりそうなるよな』
『あぁあ、徳乃真かぁ・・・』