・・・萌美を自分のとっておきの秘密の場所に連れて行った。そこはこの町にあるお城跡の公園で、南側の小さな入り口から入ったところのちょっとした石垣が残る場所だった。そこには小さな川が流れていて、数本の古い桜の木が川に枝を広げ、満開の桜から散った花びらが川面をゆっくりゆっくり流れていく、そんな場所だった。そこは花見を楽しむ人の導線から外れていて満開の桜が見頃でも人がいなかった。そこの古い石垣に並んで座って桜を眺めた。すると小さな鳥がやってきて花の蜜を吸った。隣に座る萌美から甘くいい香りが漂ってくる。
 萌美が「お弁当作ってきたんだ」と言って膝の上に広げると、サンドイッチと唐揚げと卵焼きのお弁当だった。誠寿は萌美のサンドイッチを口に運びながら「美味しい」と言った。春の日差しがとても優しくて、たまにひらひらと舞う花びらがお弁当の中に落ちてきた。誠寿の隣で萌美が微笑んでいた。
「誠寿君大好き」・・・
 誠寿は携帯の写真を閉じる。
 それから二週間もしないうちにメッセージが入った。
『ごめんね、誠寿君じゃない気がする』そんな一言でさらりと別れを告げられた。誠寿は納得できずに『どうして?』
『一度会ってゆっくり話そうよ』
『何か気に触るようなこと言った?』
『何かの間違いかなぁ?』
 と、いろいろな言葉で萌美の真意を正したが、萌美からは『ごめんね。もう付き合えない』と言うメッセージしか返ってこなかった。
 それから数日が経って、少しだけ気持ちが落ち着くと、萌美のことは早く忘れようと思うようになった。それから十日ほど経った始業式の日、久しぶりに萌美を見るとやはり萌美は可愛く、心よりも体が反応して、心臓がドキンと大きく打った。誠寿は萌美への気持ちを体の反応で知った。だが、その後クラスにメアリーという超絶美女が現れた。誠寿は他の男子同様メアリーを初めて見たときに衝撃を覚えた。こんなに綺麗な人は今まで見たこともない。だが、そんなメアリーを見ても、気がつくと誠寿は萌美を目で追っていた。もしかしたらこの先どんな美人が自分の前に現れても、どんな美人から告白されても、自分は萌美のことが忘れられないのではないか。自分には萌美しかいないのではないか。誠寿の中でそう感じた気持ちは、数日経っても消えることはなく、心の中でどんどん熟成され、確たるものとなっていった。