オナラはなんでも知っている

 ゆかりが木の影になった暗闇に向かって声をかける。
「もういいわよ」
 木の影から啓が現れ、ゆかりの隣に座る。
「ねぇ啓君、忠彦君のことなんだけど」
「何?」
「大丈夫かな? 傷ついてないかな?」
「多分大丈夫だと思うよ」
「どうして?」
「退院したら萌美ちゃんのおっぱい触れるんだ。自慢してた」
「何それ?」
「嬉しそうだったよ」
「・・・あっそ」
 ゆかりは呆れた顔をしたが、啓にはその表情に嬉しさも混じっているように見えた。
「これで解決したね」
「・・・」
 奇妙な沈黙が二人を包む
 啓はゆかりがいい出してくれるのではないかと期待し、ゆかりは啓が言い出すのではないかとビクビクしていた。
「あのね」「あの」二人が同時に口を開いた。
「ゆかりさんからどうぞ」
「啓君からどうぞ」
「・・・」また、二人の奇妙な沈黙が続く。
 二人の動悸が激しくなっていく。
 啓は思い切って口にした。「その、おっぱいのことなんだけど」
「・・・えぇ」
「見せてくれるのかな?」
「・・・約束だもんね」

『み、見せてくれるのか。本当に見せてくれるのか? でも、おっぱいを見てせっかく仲良くなれたこの関係がご破算になってしまうのなら、僕は、僕は、おっぱいを見なくてもいい』

「でもね、無理だったらいいんだ」

『本当に、本当に見せなくていいの・・・。でも、でも今ここでこの変態に恩を売ったら、これから先その代わりにもっと変態なことを言われかねない。それだったら見せてしまったほうがスッキリするかもしれない・・・』ゆかりは覚悟を決めた。

「・・・いいわよ。約束なんだから」
「・・・やっぱりいいです」
「見たいんでしょう?」
「はい・・・。でも・・・」
 あたりが暗くなっていく。ゆかりは意識していなかったが、無意識に自分を影で包み始めた。啓はそんなゆかりの心を敏感に感じ取った。
「い、いくわよ」
「ぼ、僕目を瞑るよ、僕見ないから」そう言って啓は目を瞑った。
「せーの」

 ゆかりは帰っていった。
「学校で会ってもこのことは絶対に話したらダメだからね、もし、もし誰かに話したらあんたとは絶交だからね」と言って風の如く去って行った。

 啓は本当に見ていなかった。
 でも、でも、啓は感じた。