オナラはなんでも知っている

「な、なんだよ、なんだよ・・・」英治はこの世のものとは知れない黒い人影に怯えた。何かが自分に迫ってきている。そう思った時、その黒い人影の目がカッと見開いた。二つの白い穴が自分を見る。それは間違いなく自分を見ている。「あぁ、あぁ、あぁ・・・」あまり恐ろしさに体が震え声が漏れる。『もうダメだ・・・』その黒い人影が天井に伸びて、自分に向かってきたように思われた時、
「バシン!」と乾いた音が教室内に響き、英治は衝撃を受けた。一瞬何が起こったのかわからなかった。ゆかりが我にかえり、英治に迫っていた黒い人影も消えた。
 萌美が英治の横っつらを張っていた。
「これ以上、忠彦君を裏切らないで!」

 誰も言葉を発しない。
 四人を重たい空気が包んだ。

5月14日 土曜日
 ゆかりは公園の藤棚の日陰のベンチに座って、萌美を待っていた。
『さっき病院を出たから、後30分ぐらいでそっちに着く』
 この連絡が入ってから30分が経つ。そろそろ萌美がやってくる時間だ。
 青空が広がり、風は心地よかった。暑くもなければ寒くもない。ゆかりは一年でこの時期が一番好きだった。『萌美は忠彦に話をしたのだろうか、忠彦は友達のしたことにショックを受けただろうか・・・』
 向こうから萌美がやって来た。
「ごめんね、待たせたね」
「いいよ。大丈夫」
「忠彦君どうだった?」
「来週には退院できそうって」
「よかったね」
「うん。松葉杖ついて歩く練習してた」
「そっか。大変なんだろうね」
「うん。痛いって」
「それでも順調なんだね」
「また、半年後に入院するんだけどね」
「どうして?」
「骨を止めていたプレートを取る手術をしないといけないって」
「そう」
「でも、その時は一月も入院する必要ないって、もうちょっと短くて済むって言ってた」
「そう」
「・・・やっぱり転校するんだって」
「・・・」
「もう手続きも済ませてるって」
 以前啓から聞かされていたが、転校することになったと聞かされてゆかりはなんだかやりきれない気持ちになった。
「話はしたの?」
「うん。どうしてこんなことになったのか全部話してきた」
「そう」
「寂しそうにしてた・・・」
 萌美は話を終えると「それじゃあたしお弁当の材料買いに行くね。明日お弁当を作って一緒に食べるの」と嬉しそうに言って最後に、「ゆかり、ありがとう」と伝えて去っていった。