オナラはなんでも知っている

「ダメよ」ゆかりが強い口調で遮った。「喋ってもらうわよ」
 すると、急に教室内が暗くなってきた。陽介が教室内の変化に気がつき、不安そうにキョロキョロし始めた。それでもどんどん教室内が暗くなっていく。まるで夜みたいになってきた。でも、目の前のゆかりと啓はそのことをなんとも思っていないように見える。『こんなにおかしいことが起こっているのに、なんで? なんで、二人は平気なんだ』
「陽介君、あたしの噂知ってるでしょう?」
 陽介はゆかりが幽霊女だという噂を改めて思い出した。『本当なのか? 単なる噂じゃないのか、でも、こいつ、自分で言い始めた・・・』
「幽霊と仲のいい女なのよ」
 教室内はますます暗くなっていく。
「うぅん。悪霊と仲のいい女なの」
「!」
「陽介君、黒板を見て」
 陽介が黒板を見ると、その黒板にさらに暗く何かが浮かび上がってきた。
「よぉく、見て」
 陽介が目を凝らしてみるとそれはだんだん形になってきた。いや、形というよりも文字だ。その文字は・・・。
『陽介 呪う』
「うわぁ」と叫び声を上げて陽介は立ち上がって逃げようとした。啓が必死に抑えて陽介を逃さないようにする。
「なんであんなことしたの?」
「僕じゃないよ。あれは頼まれたんだ」
 ゆかりと啓が顔を見合わせる。
「誰に?」
「あがががが・・・」
 陽介は答えようとするのだがあまりの恐怖で口が回らない。ゆかりはもう一押しだと思って黒板の文字を『陽介 呪う』から『陽介 死』に変えた。すると、あまりの怖さに耐えきれなくなったのか、今までにない力で啓を振り切って「うわぁ!」と叫び声を上げて逃げてしまった。
「あっ、啓君追って」
「ちょっと待って」と言って立ち止まった啓は陽介を追わずに、鼻をクンクンさせた。
「どうしたの?」
「ゆかりさん、オナラした」
「しないわよ!」無神経な啓に腹が立った。
「違うよ、陽介だよ。陽介がオナラをしたんだ。あんなに出ないって言ってたのに、やっぱり出たじゃないか」
「本当に?」ゆかりが啓のもとに近寄ろうとするのを啓が制した。
「動かないで、匂いが分散するから」と言って啓は陽介のオナラを全て吸い尽くすとばかりに深呼吸をした。
「だったら、そう言ってよ」ゆかりは啓に文句を言ったが、それは啓を邪魔しないように小さな声だった。
「それでなんて、陽介はなんて?」
「ちょっと集中させてよ」