オナラはなんでも知っている

 教室は誰もいなくなっていた。この時間なら陽介の話をゆっくり聞くことができる。
「座って」
 陽介は明らかに不安そうにおどおどしながら身近にある椅子を引き、そこに座った。
「何?」
 ゆかりも近くの椅子を引いて座る。
「ねぇ、陽介君は忠彦君と友達でしょう」
「・・・そうだよ」
「あんなことになって忠彦君かわいそうね」
「あぁ、うん」
「陽介君はお見舞いに行ったの?」
「・・・」
「どうして? 友達なのにどうしてお見舞いに行かないの?」
「そんなこと、別に、忙しかったんだよ」
「そう。本当はお見舞いに行かないんじゃなくて、行けないんじゃないの?」
「どういうこと?」
「だって、忠彦君に教室に来るように言ったの陽介君でしょう?」
「・・・」
「あの日、忠彦君がメアリーの椅子の匂いを嗅いだ日、忠彦君に教室で先生が待ってるって言ったの陽介君でしょう?」
 陽介の表情が変わった。どうしてそんなことを知っている・・・そんな顔だ。
「・・・先生が、呼んでいたから」
「本当に先生が呼んでいたの?」
「もちろんだよ」
「メアリーも同じことを言って教室に呼んだでしょう」
「・・・」
「それじゃ先生に確認するけど、いいわね」
「あっ・・・」
「何?」
「そうだ、僕もう帰らないと」そう言って陽介は立ち上がろうとした。すると啓が陽介を抑えた。
「まだ、話が終わってないんだ」
 小心者の啓でも陽介相手だったらなんとかこれぐらいのことはできる。真相は目の前にある、陽介が喋らないのなら・・・。啓は今こそ自分の力を使う時だと思い、陽介に凄んで言った。
「お前、オナラは出るか?」
「え?」
「オナラを出せるか? って聞いてんだよ」
 するとゆかりが小さな声で、「ちょっと大丈夫なの?」と聞いてきた。
 啓は「今こそ僕のオナラの力を使う時なんだ、いいからよく見てて」と耳打ちする。
「オナラは全てを知っている。出せ」
「出ないよ」
「出せ」
「出ないよ」
「出せよ」
「出ないよ」
「出せって言ってるんだよ」
「出るわけないよ」
「出ないのか?」
「出ないよ」
「そうか、出ないのか・・・」
 啓は三歩下がって小さな声でゆかりに助けを求めた。「どうしよう?」
「もう、黙ってなさい」
「はい」と言って啓はさらに一歩後ろに下がった。
「じゃあ、いいかな僕帰らないと」