オナラはなんでも知っている

「だって、僕その時のことあまり覚えてないけど僕がこんな怪我なんてしなければ退学までにはならなくて済んだんだろう。きっとそれは僕の心の弱さが原因なんだ。その僕の弱さのせいで徳乃真が本来受けるはずのペナルティー以上のものを受けるのはなんか悪いよ」
「忠彦、お前って本当にいいやつなんだな」
「そう? 普通じゃないかな?」
「普通じゃないよ」
「ねぇ、そういえば、英治と誠寿と陽介は元気?」
「あぁ、うん。そうだね。まぁ元気だよ」
「あれから、会ってなくて」
「誰か、お見舞いは来たの?」
「うぅん」
「なんだよあいつら、友達がいがないな」
「そんなふうに言うなよ、僕友達なんだからさ」
 ゆかりはその友達の一人があなたをこんなふうにした原因を作ったのよと思ったが、それは言わなかった。
「忠彦君、あの日、どうして教室に戻ったの?」
「あの日?」
「メアリーの椅子のこと」
「あぁ、あれは先生が呼んでるって言われたんだ」
「だれに?」
「陽介」

 夜、ゆかりは萌美にここまでわかったことを伝えた。
 忠彦君が誰かにハメられてメアリーの椅子の匂いを嗅いだことにされたこと。それと徳乃真があんなに怒った理由。萌美は黙って話を聞いていた。そして全てを聞いて、「忠彦君をハメたのは誰?」と聞いてきた。
「それも、大体分かってる」と、ゆかりは答えた。

5月11日 水曜日
 啓は朝から陽介の監視を始めた。もちろん、チャンスがあればオナラも嗅ぐつもりだ。
 啓が陽介を注意深く見ていると、陽介は相変わらず女子ばかりを見ていた。そういう意味では何も変わったところはない。自分の机に突っ伏して、座っている女子が足を組み替えるのをじっと盗み見ている。階段を上がる女子の後ろからスカートが翻るのを見ている。特にメアリーのことをじっとりと見ていた。
 啓は陽介がトイレに行く時も当然ついていった。だが、そう簡単にはオナラを出さず、そのまま授業が終わり放課後になった。準備を終えたものから教室を出ていく。
 ゆかりが啓の元へやってきた。
「どう?」
「ダメだ、オナラはしなかった」
「それじゃ、直接聞くしかないわね」
 二人は頷き合い、教室を出た。そして、陽介が下駄箱にいるところでゆかりが声をかけた。
「陽介君」
「!」
「ちょっと話があるの、いい?」
 ゆかりは「こっち」と言って今出たばかりの教室に陽介を促す。