オナラはなんでも知っている

「そんなの直接聞けばいいじゃない」
 ゆかりは忠彦が窓から身を投げたときにその前後の記憶を失っていることを啓に話し、直接聞くのは思い出したくないことを思い出させて、傷をえぐることになるかもしれないからできれば直接聞く以外の方法で知りたいと伝えた。
「そうなると僕のオナラだねぇ」
「そう。忠彦君のお見舞いに行ってオナラを嗅いできて」
「僕、あまり忠彦君と親しくないんだけど、なんて言ってお見舞いに行ったらいいかな?」
「そんなの、クラスメイトなんだから、お見舞いに来たよ。って言えばいいんじゃない」
「なんか、不審がられないかな?」
「クラスメイトなんだからもっと自信を持っていいわよ」
「どうしたの、珍しいねって言われたら?」
「クラスを代表してきましたって」
「会いたくないんだって言われたら?」
『あぁ、もうイライラする。こいつ、ダメなやつじゃん』啓は世話の焼ける小心者だと気がついた。依頼人と絶対に顔を合わせなくて済む方法を考えたのもうなづける。
「元気そうだから、また来るよって言えばいいのよ」
「差し入れは何を持っていったらいいんだろう?」
「漫画でも持っていきなさいよ」ゆかりは声には出さないが、それぐらい自分で考えろよと思う。
「オナラが出るまで待たないといけないだろう。じっと待ってたら不自然じゃないかな?」
「だったらその漫画でも読みなさいよ」
「ゆかりさんて頭いいんだね」
 一事が万事ゆかりがアドバイスをしながらなんとかお見舞いの作戦が決まった。あとはオナラを嗅ぐだけだ。本人が封印したいと思えば思うほどオナラが心を運んできてくれる。

5月3日 火曜日
 そしてこの日、二人はゴールデンウィークの休みを利用して病院にやってきた。
 ゆかりは1階のロビーで待つことにした。
「えっ、ゆかりさん行かないの?」と、啓は明らかに不安そうな顔をした。
「あたしと啓君が一緒に行ったらおかしいでしょう。あたしはここで待ってるから、昨日言った通り啓君一人で行くの」
「あのさ、」
「何?」
「オナラが出るまでどれくらい待とうか?」
「1時間待ってダメなら戻りましょう」

 啓はゆかりから教えられた病室の前に来ると、名札に忠彦の名前を見つけここで間違いないと扉を開けた。ゆかりが言っていた通りベッドはカーテンで仕切られて個室になっていた。真ん中のカーテンまで進み、声をかける。