オナラはなんでも知っている

「う、うん。ちょっとね・・・、刺激したらダメだからね」と小声で亮平に言う。
「そうか、君は辛かったんだね」啓の亮平を見る目が優しい。「ゆかりさん、弟さんは亮平君て言うんだね」
「・・・そうよ」ゆかりはどうして名前を知っているのだろう、自分は今亮平を名前で呼んだだろうか? と考えた。
「この前一人で電車に乗ろうとしたでしょう。どうして電車に乗ろうとしたか知ってるかい?」
「・・・」なんで、知ってるの? どうして弟が一人で電車に乗ろうとしたことを・・・。
「あの時電車に乗ろうとしたのはね」
「・・・」
「亮平君の願いはね」
「・・・何?」
「お父さんに会いたいんだ」
 ゆかりは何も言えなかった。亮平が考えていたこと。姉である自分にも、母親にも言えなかった理由。『父親に会いたかった』亮平はまだ小さい、離婚した父親に会いたがっている気持ちは分かる。また、それを自分や、ましてや母親に言えなかった気持ちもわかる。
「亮平、そうだったの?」ゆかりが亮平の目を見て尋ねると、亮平は「うん」とうなずいた。
「どうして?」
「だって、もうすぐ・・・」
「誕生日だから・・・」啓が言った。
「そうなの?」
「うん」
「わかった。お姉ちゃんもすぐに家に入るから、亮平は先に入ってなさい」
「はぁい」と言って亮平は家に入っていった。
 ゆかりは啓が本物だと気がついた。
「本当なのね」
「やっと、信じてくれた?」
「えぇ」
「だから、オナラを嗅ぎたいと言ったんだ」
「そうね・・・」
「よかった」啓は笑顔になった。
「それじゃ、徳乃真君の秘密も?」
「うんあいつのオナラから嗅ぎ取った」
「忠彦君が気になっている女性のことも?」
「もちろん、オナラから嗅ぎ取った」
「誰でもわかるの?」
「うん、オナラを嗅げば誰でもわかる」
「そう」
「ゆかりさんの力は、何? 噂では幽霊と友達とか言ってるけど。そうじゃないんでしょう」
「うぅん。ちょっと違う。見てて」そういうと影もシミもない家の塀に『啓』という文字を黒く浮き出させ、消した。
「おぉっ!」
「これが私の力。自由に影を作れるの」
「すごい・・・」啓はゆかりの力に目を丸くした。「僕を助けてくれた時の、お漏らしも」
「そう。ズボンにシミの影を作っただけ」
「それじゃさっきも」
「そう、陰を濃くして姿を隠してた」
「すごいや!」
「啓君もね」