ゆかりは自宅のマンションに帰ってくると母親の手伝いをして夕飯の支度を始めた。母親は2年前に離婚して今は女手一つで二人の子供を育てている。今日の夕飯は弟の大好物のハンバーグで、大きめのハンバーグが肉汁もタップルで美味しそうに焼き上がった。それをお皿に盛り付け食卓に運ぶ。歳の離れた小学校2年生の弟の亮平はこのハンバーグを見て、「わぁ」と歓声をあげた。ゆかりは弟を可愛がり、弟も姉を慕っていた。ゆかりは亮平に夕飯のおかずのハンバーグを半分あげると「姉ちゃんありがとう」と言って大人顔負けの食欲で「うま、うま」と言いながらどんどん食べていく。母親がそんなゆかりに自分のハンバーグを半分あげると、亮平がそれを羨ましがって、半分の半分をまたもらう。そうやって三人ながらもいつも賑やかな食事になっていた。ゆかりは早速今日の転校生の話を母親と亮平に聞かせた。
「へぇ、そんなにすごい美人なの?」
「もう、びっくりするぐらい。しかもいけすかないやつだけど徳乃真というかっこいい男もいるからうちのクラスすごいのよ」
「それじゃ、ゆかりの噂話は」
「おかげで、全然なし」
「よかったじゃない」
「そう、転校生様様」
 ゆかりの母親は学年が変わるたびについて回る幽霊女ゆかりの噂のことを心配して尋ねたのだが、今回はその心配は要らなかったようで少しホッとしたようだった。
「姉ちゃんとその人どっちが綺麗なの?」弟の亮平が姉をからかいながらいう。
「ばか、すっごい綺麗なんだよ、私が叶うわけないじゃない」
「そんなに綺麗な人がきたのなら何か起きるね」
「何生意気なこと言ってるの」
「だって、お母さんもよくいうよね。綺麗な人がいると必ず事件が起こるって」
 ゆかりの母親は婦警をしており、警察署に駆け込んでくる相談に対応していた。若い男女のDVやストーカーの相談を受けていると綺麗とか、格好いいってんなんだろうと思うことがあるってゆかりにこぼしていた。どうやらそのことを聞きかじっての話らしい。
「姉ちゃんも巻き込まれるんじゃないの?」
「私は大丈夫、外見では好きにならないから」
「そうね、あなたはね」
 と言って話は変わり、亮平の新学期の話に変わりながら三人の夕食が続いた。

4月11日 月曜日
 始業式も終わり、この日から通常授業が始まると同時に部活動も開始された。