「では。わたしはこれから用事があるので」
　彼が少し辛そうな表情をしたのは、わたしの気のせいだろうか。
「待って」
　急に真剣な口調になった彼が、わたしの腕を掴んで引き止めて来る。
「な、なんですか」
　腕から伝う体温が温かくて、妙に照れて仕舞った。
「星羅。僕の顔を見て」
「い、嫌です」
「どうして？」
「それ、は……」
　余命が見えるなんて言えない。わたしはモゴモゴと言葉を濁す。
「星羅」
　彼は、わたしの名前を優しく呼んだ。
　次の瞬間、ふわり、と温かなものに包まれ、背中を何度も摩られる。
　なっ、何っ⁉︎
「星羅。溜め込まないで。人を頼って」
　耳にかかる温かい息。柔らかく、優しい声。不意に、涙が溢れた。
　一粒流れただけで、堰を切ったように、涙がぶわっと溢れ出す。
　どうしよう。初めて会った人に、こんな重くて暗い話、していいのかな。
「星羅」
「うっ……、あのっ、わっ、たしっ……！」
　優しい声に促され、言葉が溢れ落ちる。
　口を開くと、嗚咽が次々に飛び出した。
「わっ、たし、いじ、められてっ……！っく、辛くてっ……！しょ、せつかのこと馬鹿にされたのがっ、一番悔しかったっ……！」