気付けば昇降口まで来ていた。
 ——これが残念に思う他の理由。つまり、虐めだ。
 さっちゃんは強いから、同じクラスになれば虐めなんて起こらないはずなのに。
 こんなことを願っても無駄だ。
 それに、さっちゃんを利用するみたいだし、そんなの虐め以上に嫌だ。
 わたしは靴箱の影に隠れ、膝に顔を埋めて声を押し殺しながら泣いた。
 
 いつまでそうしていたのだろうか。
 遠くで鐘の鳴る音がした。埋めていた顔を上げる。
 そこに、視界がぼやけても分かるくらい美形の男の人がいた。あ、そうそう、ぼやけていたら人の余命は見えないんだ。
「大丈夫?え、泣いてる⁉︎え、大丈夫⁉︎」
 彼は、わたしを見るなり慌てだした。
「あ、ご、ごめんなさい。だ、大丈夫です」
 涙を雑に拭き取り、彼の胸の辺りを見つめる。
「そう?……あ、自己紹介がまだだったね。僕は竹森翔介(しょうすけ)、三年五組だよ。君は?」
 翔介、と口の中で呟く。