伊織が死んで早三年。人魚を探し続けて、夏の夜についに打ち上げられた人魚を発見した。人魚の臓物は人間と同じ。肺が二つと心臓が一つ。肺を二人で分け合った。

「心臓はいらないよ。不老不死はいらないから。伊織ちゃんのいない世界でそんなに長く生きていたくない」

 しぐれは人魚の心臓を食べなかった。だから代わりに僕が食べた。二人で人魚を食べたあの日から、しぐれは再び踊り出し、今も踊り続けている。

「ねえ、何であやかしになったのに、会えないのかな?」

「しぐれはまだあやかしになったばかりじゃないか。一人前のあやかしになるには修行が必要なんだよ。伊織だって修行してただろ。踊り続けていればそのうち会えるさ」

 口から出まかせが次から次へと出てきた。

「それもそうだね」

 希望を手にしたしぐれは三年ぶりに笑った。伊織の代わりにあの笑顔を永遠に守り続ける。伊織が死んだ日にそう決めた。