僕は鏡を見るたびに伊織を思う。目の色だけが違う片割れは、生きていればこんな風貌になっていたのだろうか。彼ならしぐれを幸せにできたのだろうか。

 でも、彼女は死んだ恋人にそっくりな僕を見ても決して同一視しない。飛んで来て僕を直撃したビニール傘を道の脇に捌けて、ずぶ濡れのしぐれをタオルで拭う。しかし、雨は降り続けているので拭いきるのは無意味だと思って諦めた。

「もう終わりにしよう」

 もう一度彼女に告げる。叫びたいのをこらえて、なるべく普通の声で言うように努めた。

「なんで? 雨の日に踊ってたら、死んだ人に会えるって伊織ちゃんが言ったんだよ」

 知ってるよ。その時僕もそこにいたんだから。しぐれに踊り方を教えたのは僕だ。

「伊織ちゃんは言ってたんだよ。いつか必ず、伊織ちゃんと私が結ばれる時代が来るって。伊織ちゃんの予言は必ず当たるんだ。伊織ちゃんは嘘なんかつかないんだ」

 限界だった。僕はしぐれの青い瞳をまっすぐ見つめて告げる。

「つくよ。伊織は、しぐれのために嘘をついたんだ」