それが一変したのは、進級を控えた一年生の冬──初めての霊力測定の日だった。
霊力は、女性の場合十六歳、男性の場合十八歳くらいでおおよそ安定するとされており、磐境学園では一年生の終わりと卒業間近の二度しか測定されない。
入学試験を受ける人数は相当のものだし、霊力もまだ不確実な年齢。希少で耐用回数も限られている霊力測定器を使うのではなく、試霊石に触れて異変がないか、耐性によってふるい落とされるのだ。
霊力が乏しく、力に当てられてしまうような場合は、試霊石に触れると耐えきれないほどの目眩がするという。
紗里にとってはなんともなく、試験官の教師も問題なしと認め、その他の成績も合格点に達していたので入学できた。
ところが……霊力測定で、前代未聞の事件が起きた。
「次──白沢紗里さんですね」
「はい」
「測定器にそっと触れてください」
大きな水晶玉を囲む精密そうな機械には、総合値である霊力の他、妖力、呪力など細分化されたメーターもついていて、触れると力の強さや特性がわかるという仕組みらしい。
緊張しつつ、紗里は測定器へと手を伸ばす。ひんやりとした球体に触れるが──何も、変化は起きなかった。
「……? おかしいですね。何か、霊力を抑えるようなものを身に着けていませんか?」
「いえ……何もつけていません」
教師が測定器の確認や調整をしたあと、もう一度触れるが、やはりメーターの針はぴくりとも動かない。
首を傾げた教師が代わりに触れると、針はすぐさま大きく反応した。
「……もう一度」
驚きと困惑が混じる表情で見られ、紗里はドクンドクンと、心臓が嫌に大きく脈打つのを感じる。
(大丈夫、何かの間違いのはず……)
浅く息をしながら、震える手を伸ばす。
しかし──測定器は、やはり無反応だった。