そんな中で紗里は少数派の、会社員の両親を持つ一般家庭の娘だ。

なぜ磐境学園に行くことになったかというと、妖狸(ようり)の子孫だというご近所のおじいさんが、両親に勧めたからである。

おじいさんは、その気はなくとも人を惑わせてしまい、普通の人が家に近づこうとすると道に迷うことが多いのだという。
しかし、圭と紗里はいつだって迷わず、おじいさんに届け物ができた。

発作で倒れている彼にいち早く気づき、救急隊を案内したのも、当時中学生だった二人だ。

『圭くんと紗里ちゃんには、いい力がある。きっと磐境に入れるだろう』

おじいさんの言葉通り、兄は磐境学園にすんなりと合格した。二年後には紗里も続く。

紗里の夢は、その特性や力によって困ることもあるあやかしの力になること──より具体的に言うと、何かしらの医療スタッフになることだった。

おじいさん曰く、あやかしは窮地に陥ったり感情が昂ぶったりすると、本来の力が制御しきれずに、より強く出てしまうそうだ。すると、霊力が乏しく耐性のない人間は、力に当てられてまともに対応できなくなってしまう。

あやかしは人よりも丈夫なため、命の危機に陥る状況は少なく、今のところそこまで大きな問題にはなっていないが、一部のあやかしは危機感を抱いているらしい。

この話を聞いて、紗里の決意は固まった。

『おじいさんみたいなあやかしを助けたい』と。

磐境学園を卒業するのはすなわち、あやかしにも対応できることの証明でもある。また、学習環境も充実しているので、目指している学部も狙いやすい。

そういうわけで紗里は、強いあやかしとお近づきになろうと目をギラギラさせている生徒や派閥争いには近づかず、真面目に充実した高校生活を送っていた。