──超常の力や種族が現実に存在することが一般に知られ始めて、まだ四半世紀も経っていない。
そんなものはおとぎ話だと一笑に付す人がいる一方で、人ならざる力を持つ種族や、不思議な力を持つ人間の実在を確信する人々の数も、着実に増えつつあった。
その大きな背景には、今から約十五年前に実用化された『霊力測定器』の存在がある。
これまでは自称でしかなかった超常の力が、ある種のエネルギーとして観測が可能。おまけに、明確な数値としても測定できる──これによって、常識は転換を始めたのだ。
人々は、自分に特別な力がないか、こぞって調べたがった。
きちんとした霊力測定器は希少で、耐用回数にも限りがあるため日本国内に数台しかないが、簡易測定は若者を中心にブームとなり、今となっては占いの一種のように浸透している。
とはいえ、一般的にはまだ霊力についてあまり詳しいことは知られておらず、多くの人々にとってその有無や多寡は、話の種やちょっとしたステータスとして語られる程度だった。
そんな中で、磐境学園はかなり特殊な学校だ。
知る人ぞ知る全寮制の名門高校で、最大の特徴は、ある程度強い霊力があると見込まれた生徒しか入学できないこと。
磐境学園はそもそも、あやかしや半妖といった超常の力を持つ者のために作られた学校で、霊力という概念が知られるようになると、一部の人間にも門戸が開かれ、人妖共学になったのだ。
あやかしは基本的に人間と共存しているので、早くから交流を持っておくに越したことはない──というのが、共学化に踏み切った表向きの理由。
しかし、隔離施設兼パートナー探しの場として、というのが、内実ではより大きな理由だったのではないかと囁かれている。
強い霊力を持つ人やあやかしは、意図せずしてその力で周囲を魅了する。とりわけ強力な場合は洗脳のように作用することすらあり、耐性がない一般市民と共学にするとさまざまな問題が起きかねない。
そこで、霊力を持つ──すなわち霊力に耐性がある子女たちを集め、人もあやかしも円滑な学校生活を送れるようにしたというわけだ。
あやかしの血を引く者は、基本的に人よりもずっと強い霊力を持つ上、あやかしならではの特色や秀でた才を生かしてさまざまな分野で主要な立場にいる。
磐境学園は、充実した学習環境がある進学校としても人気だが、あやかしとの縁を求める名家やその子女たちが、人間生徒の半数以上を占めていることだろう。