「あんときもそうだった。紗里に触れたらずっと楽になって……。おまえは零力っていうけど、ただのゼロじゃない。少なくとも、俺にとっては」
「どういうこと?」
「んー……とりあえず、紗里は霊力の干渉をかなり受けにくいと思う。俺に盛られた薬は、たぶん呪い込みのやつだから……触れたことで、俺に干渉してた力も薄れて楽になったってとこか」
あのとき、悠永がしきりに紗里の手を不思議そうに見ていたり、抱きしめたりしてきたのはそういうことだったのかと、今になってようやく理解する。
「よくわかんねぇ部分もあるけどとりあえず……俺といて平気なんだから、紗里は大丈夫だ。堂々としてればいい」
「……本当に?」
「ああ。まともなやつなら遅かれ早かれ、おまえが不正に入学してないことも、生半可なやつじゃないってこともわかるはずだ。わかんねぇやつもわかろうとしねぇやつも、相手にしなくていい。面倒なやつは俺に任せとけ」
柔らかい眼差しを向けられ、紗里は落ち着かない気持ちで視線を揺らめかせた。
「そこまでしてもらうのは……。私、別に、よちよち歩きの子狼とかじゃないし」
「そんなこと思ってない。どっちかっつーと……」
少し金が混じった目で紗里を見つめた悠永は、少し赤くなっている方の頬に手を添える。
「治癒系はあんま得意じゃねぇから、痛かったら言え」
「うん……?」
首を傾げそうになった瞬間、頬に柔らかな唇が触れて、そこから仄温かい熱が広がる。
「……痛くない……」
その後のいろんな衝撃で意識が他に行ってあまり認識できていなかったが、強く叩かれ、確かに残っていたはずの痛みが、さっぱりなくなった。
驚いて目をみはる紗里の頬に、もう一度唇が触れる。
「もう痛くないよ?」
「……今のは、違う」
至近距離で紗里を見つめる目は、徐々に黄金の輝きを増していた。
「覚悟しとけよ、紗里。妖狼は、こいつだって決めた相手には一途なんだ」
(……!?)
──……紗里の高校生活は、どうやらまだまだ波乱続きのようだ。
《完結》