「っていうか紗里、やろうと思えばそんな感じで喋れるんだな」
「あ……」

ここでようやく、敬語がすっぽ抜けていたことに気づいて、紗里は口元を押さえた。

「……すみません」
「なんで? 俺はそのままがいい。でもやっぱ〝大神先輩〟は変わんねぇんだな。悠永って呼んでよ」

少しねだるような口ぶりになんだかきゅんとして、つい頷いてしまった。


「そういえば、毒って……?」

先ほど耳にした衝撃のワードをふと思い出して尋ねると、悠永は渋い顔になる。

「あー、まああれだ、媚薬みたいなやつ」

おおよそ予想はついていたものの、改めて聞かされるとぎょっとしてしまう。

「最初に紗里に会ったときのことな。強力なやつを盛られて、効果が消えるまで犯人に見つからねぇように隠れとこうと思ってここに来たんだ」
「その……そういう危ないことって、多いの?」
「大神家を敵に回したいヤツはそういねぇから、そこまでのは滅多にない。けど、狼は一途だから、既成事実からでもいけるとか勘違いしてる輩は時々いるな。はぁ……んな単純なものかっての」

有力なあやかしも、それはそれで苦労がとても多そうだ。

「今日も、ありがとな。うっかり燃やしかけてたから、紗里が鎮めてくれて助かった」
「もやし……」

白く細い野菜を思い浮かべ、紗里はちょっぴり現実逃避した。