「さっきの見た? あの子って、本当に圭先輩の妹だったんだね」
「ええ……でも、ありえるの? 先輩は優秀って有名だったのに……実は血の繋がりなかったりして」
「ありえるー」

「……あれでしょ? 噂の」
「よく磐境に戻ってこれたわね。〝零力(れいりょく)〟のくせに」

「そもそも、なんであんな子が入学できたのかしら?」


もはや隠す気もない囁きの数々で、これから始まる高校生活二年目がどういうものになるかはおおよそわかるというものだ。
ため息をつきたくなるのをなんとかこらえ、せめて俯くまいと、紗里はまっすぐに前を見て歩く。

しかし、部屋が間近というところで、一年生の途中まで仲のいい友達だった女子生徒と鉢合わせてしまい、お互いに固まった。

「あ……」

彼女は視線を泳がせ、口を半端に開けては閉じてを何度か繰り返す。

何か言おうとしたのか……あるいは、紗里が戻ってきたことに驚いただけなのか。結局、特に言葉を発することなく、気まずそうな表情で去っていってしまった。

『まだ仲良くしてくれてる友達もいる』

先ほど兄に伝えた嘘を思い出し、なんとも言えない苦い気持ちを覚えて、紗里は少しだけ視線を落とした。

(……わかってる。無理もないことだって)

いろいろな意味で特殊な磐境学園で、紗里は今やすっかり異分子となってしまっている。下手に親しく接すると、仲間外れどころでは済まなくなるだろう。

そう理解する気持ちはあるのに、一年生のときの思い出が蘇ると『なんでこんなことになってしまったんだろう』と、どうしても考えてしまうのだ。

(だめだめ。あと二年、卒業まで頑張らないといけないんだから)

もう戻れない、楽しかった過去の記憶を振り払うようにして、紗里は再び歩き始めた。