いつものように放課後を旧校舎の裏庭で過ごしながら、紗里はぼんやりと花壇を眺めていた。
大神悠永とここで出会ったのは、つい一週間ほど前のこと。
しかし、当然と言えば当然なのだが、あれ以降悠永の姿は一度も見ていない。
あの出来事は白昼夢か何かだったのか……一つ思い当たりがあるとすれば、あの男子に嫌がらせで霊力をぶつけられたことだ。
あのせいで、何か変な幻でも見たのかもしれない。
「はぁ……勉強でもしよう」
近ごろ集中力を欠いていたので、しっかりしないとと自省し、紗里は課題を取り出した。
「……紗里」
「ひゃっ!?」
急に肩を叩かれ、紗里は飛び上がる。
笑いながら隣に座ってきたのは──。
「お、大神先輩……」
幻でなければ、二度目ましての悠永だった。
「元気だったか」
「はい、一応……」
相変わらず、ひどい言葉を投げかけられたり事実無根の噂をされたりはしているが、もはやそれは日常のようになっている。
気分が沈むこともあるけれど元気ではあるので、紗里は頷いた。
「そうか。ちょっとこれ触ってみろ」
悠永が鞄から取り出したのは、なんだか既視感がある水晶玉とメーターだった。
霊力測定器をぐっと簡素化したような見た目に、思わず紗里は渋い顔になって身を引く。
「なんですか? これ」
「開発中のやつを借りてきた。特性とか細かいことはわかんねぇけど、霊力だけ簡易的に測れる」
やはりそうかと、ますます紗里の眉間に皺が寄った。
測定器に触れ、高校生活が一変したあの日は、トラウマのようになっている。
「痛くねぇから、ほら」
促されて渋々水晶玉の部分に手を触れるが、メーターの針はピクリとも触れない。
わかりきっていた結果なのに、悠永は首を傾げる。
「本当に零力なのか」
「……そうみたいですね」
「でも、入学試験はパスできたんだろ。それに、この間の俺に近づいても平気だった」
「……なんで入学できたのかも、霊力がないのかも、私にはわかりません。入学の試霊石では本当に目眩なんてしなかったし、おじいさんの家に行く時も迷ったりしなかったし……霊力があるって思ってたのに……」
「おじいさんの家?」と聞かれ、紗里はかつての出来事を話した。
悠永は静かに話を聞き、腕組みをする。
「霊力が少ないと、普通は耐性もなくて、簡単に惑わされる。おまえの場合はなさすぎて逆に影響も受けないとか……? でも、それだけじゃない感じがするんだよな」
紗里が逃げないことを確かめるように、ゆっくりと伸びてきた悠永の手は、優しく頬に触れてから離れていった。