陽の光を受けて、新緑が柔らかくも鮮やかに輝く季節。
生命力にあふれる木々を後部座席の窓越しに眺めながら、白沢(しらさわ)紗里(さり)は少しずつ、しかし確実に気分が沈んでいくのを感じていた。

紗里の兄・(けい)が運転する車内には、重い沈黙をごまかすようにJ-POPが流れているが、それぞれに沈んだ表情をした白沢家の兄妹の前では、流行りの明るい音楽も虚しく響く。

「紗里、本当にいいのか?」

圭に尋ねられ、紗里は反射的にうなずく。
しかしぼんやりしていたためか、続いた言葉はやや苦しい言い訳のようになってしまった。

「大丈夫だよ。あと2年なんだから、平気。それに、学こ──教育機関としては……いいところだし」

圭は小さくため息をつき、ルームミラー越しに気づかわしげな視線を向けてくる。

「……って、お前はいっつも言うから心配なんだよ。本当に大丈夫なのかって」
「…………」

まるでお通夜のような雰囲気を払拭しようと、紗里は意識して顔に力を入れ、笑みを作った。

「あはは、そんなに心配しないでよ。私は大丈夫だから。ちゃんと、まだ仲良くしてくれてる友達もいるし」
「ならいいけど……頼むから、無理はするなよ」
「……うん」

そんな話をしているうちに、前方に大きな門扉が見えてくる。
紗里が通う高校であり、圭の母校でもある、磐境(いわさか)学園だ。

駐車場には春休みを終えて戻ってきた生徒たちの姿がちらほらとあり、車から降りてきた紗里と圭へ、隠しきれない好奇の視線が向けられる。
それには気づかないふりをして、紗里は兄へと手を振った。

「送ってくれてありがとう、お兄ちゃん。じゃあね」
「うん。さっき言ったこと、忘れるなよ」

寮の前まで来て振り返ると、まだ兄は紗里の姿を見守っていた。ありがたさと申し訳なさを感じつつ、最後にもう一度手を振って寮の中へ入る。

その途端、ざわめきがさざなみのように広がった。