「神議り?行きませんよ。私は」
『行かないのですか!?』
「行かないのですか!?」
イコマとニコマ、そして掬水は異口同音に声を上げていた。
彼女が人神となり、半年以上が経過した。10月も差し迫ったある日の事。神議りの出欠席を問う書状が彼女の元にも届いたのである。今やすっかり彼女の秘書的な振る舞いも板についた掬水が書状を持ってきてくれたのだが、彼女は迷わず『欠席』に印を付けた。
三者三様に目をむく仲間達に、彼女は「まず一つ」と告げた。
「神議りは縁結びの会議とも聞いた事がありますけど。そんな事よりもっと他にやる事があるでしょう」
「あの。主様ご自身も縁結びの神でいらっしゃいますが」
掬水の言葉にイコマ・ニコマも頷く。
だが彼女は溜め息をついた。
「縁結びがどーたらと言う前に、切らなければいけない悪縁の何と多い事か。本業の前にやらないといけない事がいっぱいあるんです」
彼女は「もう一つ」と言った。
「第一神議りなんて、要はお酒を飲んで騒いで他人の恋を肴に盛り上がるだけの集まりじゃないですか。もっと他にやる事あるだろってのもありますけど、私は賑やかな席が大嫌いなんですよ」
『そうだったのですか!?』
「そうだったのですか」
「苦痛を覚えるくらいに嫌いです」
イコマ・ニコマと掬水に、彼女は顔を顰めて答えた。
もう少し正確に言うと、賑やかな席と言うよりか、飲み会など『いつ終わるかわからない時間の中で、見知った相手でもそうでなくても、不特定多数の相手と雑談を楽しむ』事が、彼女は大の苦手なのだ。
彼女は「更に一つ」と続ける。
「そもそも私は神通力を預かっただけの只の人間です。しかも縁切りばかりしている不吉な存在。いや。掬水君を貶している訳ではなく、私の神としての活動の方針の問題で」
自嘲するでもなく事実を述べるだけの口調だ。だが掬水にフォローを入れる事は忘れない。
「そんな中途半端で不吉な存在を不快に思う神様は確実においででしょ。下手をしたら『穢れ』扱いで叩き出されるかも」
彼女は「おお怖い」と身震いしてみせた。
「しかしながら主様。縁切りで有名な神様は、主様以外にいらっしゃいますよ?」
「あちらは格も歴史も知名度も実力も違いすぎです。比較に出したら向こうに失礼なくらいです。いや。掬水君が失礼だと言ってる訳ではなくて」
彼女はばっさりと切り捨てつつも、やはり掬水にフォローを入れる事は忘れない。
「なので行かない方が無難だと思うんですよ。そういう訳なので返送してきます」
「それはわたくしの仕事ですから!」
「あ。そうでした」
いまいち『主として従者を使う』事に慣れていない彼女を、掬水は慌てて止めた。
そんな主従コンビのやり取りを必然的に傍観する立場となっていたイコマとニコマは、困ったように顔を見合わせたのであった。
『行かないのですか!?』
「行かないのですか!?」
イコマとニコマ、そして掬水は異口同音に声を上げていた。
彼女が人神となり、半年以上が経過した。10月も差し迫ったある日の事。神議りの出欠席を問う書状が彼女の元にも届いたのである。今やすっかり彼女の秘書的な振る舞いも板についた掬水が書状を持ってきてくれたのだが、彼女は迷わず『欠席』に印を付けた。
三者三様に目をむく仲間達に、彼女は「まず一つ」と告げた。
「神議りは縁結びの会議とも聞いた事がありますけど。そんな事よりもっと他にやる事があるでしょう」
「あの。主様ご自身も縁結びの神でいらっしゃいますが」
掬水の言葉にイコマ・ニコマも頷く。
だが彼女は溜め息をついた。
「縁結びがどーたらと言う前に、切らなければいけない悪縁の何と多い事か。本業の前にやらないといけない事がいっぱいあるんです」
彼女は「もう一つ」と言った。
「第一神議りなんて、要はお酒を飲んで騒いで他人の恋を肴に盛り上がるだけの集まりじゃないですか。もっと他にやる事あるだろってのもありますけど、私は賑やかな席が大嫌いなんですよ」
『そうだったのですか!?』
「そうだったのですか」
「苦痛を覚えるくらいに嫌いです」
イコマ・ニコマと掬水に、彼女は顔を顰めて答えた。
もう少し正確に言うと、賑やかな席と言うよりか、飲み会など『いつ終わるかわからない時間の中で、見知った相手でもそうでなくても、不特定多数の相手と雑談を楽しむ』事が、彼女は大の苦手なのだ。
彼女は「更に一つ」と続ける。
「そもそも私は神通力を預かっただけの只の人間です。しかも縁切りばかりしている不吉な存在。いや。掬水君を貶している訳ではなく、私の神としての活動の方針の問題で」
自嘲するでもなく事実を述べるだけの口調だ。だが掬水にフォローを入れる事は忘れない。
「そんな中途半端で不吉な存在を不快に思う神様は確実においででしょ。下手をしたら『穢れ』扱いで叩き出されるかも」
彼女は「おお怖い」と身震いしてみせた。
「しかしながら主様。縁切りで有名な神様は、主様以外にいらっしゃいますよ?」
「あちらは格も歴史も知名度も実力も違いすぎです。比較に出したら向こうに失礼なくらいです。いや。掬水君が失礼だと言ってる訳ではなくて」
彼女はばっさりと切り捨てつつも、やはり掬水にフォローを入れる事は忘れない。
「なので行かない方が無難だと思うんですよ。そういう訳なので返送してきます」
「それはわたくしの仕事ですから!」
「あ。そうでした」
いまいち『主として従者を使う』事に慣れていない彼女を、掬水は慌てて止めた。
そんな主従コンビのやり取りを必然的に傍観する立場となっていたイコマとニコマは、困ったように顔を見合わせたのであった。