「カメラに狛犬が映ってる」
「は?」
「は?」

師走も差し迫ったある日の事。インターフォンの呼び出し音に応じた彼女の言葉に、彼女の母親と妹は共に画面を覗き込んだ。

「何これかんわいいい!」
「かんわいいい!」

そして両者は歓声を上げた。彼女が言う通り、画面には2体の狛犬が映っていた。大きくつぶらな目にころころとした体形と、何処かマスコット的なユーモラスさも感じられる、非常に愛くるしい姿の狛犬である。

『良かった!我等が見えているようですぞ!』
『突然の訪問に驚かれたと思います!不肖我等イコマとニコマ、人神様をお迎えに上がりました!』
「『ヒトガミ様』?」
『貴方様の事でございます!』

イコマ・ニコマと名乗った狛犬達は確かに口をきいた。鸚鵡返しに疑問符を上げた彼女に、2体揃って声を上げる。

………………………。

彼女達親子は、顔を見合わせた。

「どうする?」

と、彼女の妹の紫苑。

「これが人間だったら『宗教の勧誘ならお断りだ』と門前払いで追い返している所だがな」

辛辣に、彼女。

「うん。でも何か…何かの撮影とか演出とかじゃない…よね?」

と、戸惑い気味に、母の佳乃。

「新年のイベントにはまだ早すぎるでしょー。クリスマスが終わったどころか、始まってすらもいないんだし?」
「あとさ。この狛犬ちゃん達?向こうが透けてない?」

紫苑の言う通り、狛犬達は姿こそ見えているが、身体が透き通って見える。

「…何だか、不思議な事が起こってるみたいだね。落ち着かないとね」
「狛犬と言えば神社だし、少なくとも悪いものじゃないぽいし。とりあえず家に入れよっか」
「寒空の下に放っとくのも可哀想だもんね」
「ねえ。狛犬ちゃん達ってお茶飲めるの?牛乳の方がいい?」
「直接訊いて決めようか」

彼女は言って、家に入れようと言い出した立場だからと、自分からすたすたと玄関へ向かい、三和土に置いてある靴を素早くどけてからドアを開けた。

「まずは中へどうぞ。足を拭くタオルも必要でしょうから、ちょっと玄関で待ってもらう事になりますけど」
『恐れ入ります!』

手で促す彼女と、彼女に続いてきた佳乃と紫苑に、イコマ・ニコマはぴょこんと頭を下げた。