午後から早苗は遠十郎の元を訪ねた。
もちろん、今回の件を報告する為である。
時仁には店番をお願いして、早苗は遠十郎に事の発端を話し、拾った式神を渡す。

「やはり、あの男がいたのか・・・・・・」

予想通り、彼も六檀が関わっていることに気づいていた。
ふむ、と考え込んでしまう。
美形が真剣な表情で黙り込んでいるのは大変絵になるので、この様子こそ皆が見たがっているものなのだろうなぁと思ったり。

「早苗、今回の件は何も言わずに任せることになってしまってすまなかった。俺の不手際のせいだ」

「そんなの気にしないでいいわ。遠十郎さんにはいつもお世話になっているから」

遠十郎には本当に世話になっている。
早苗が記憶をなくしてからも、早苗のことを心配して面倒を見てくれていた。
彼いわく、早苗は妹みたいなものだからということらしいが、要するに他の人よりも幼く、頼れる大人もほとんどいない早苗を心配してくれているのだ。

「あとは俺たちに任せてくれ。褒賞は何がいいだろうか・・・・・・」

「いつも通りにお任せするわ。私たちは偶然関わっただけだもの」

遠十郎は色々あれが良いかこれが良いかと呟いてから、おもむろに早苗に向き直った。

「早苗、何か悩みでもあるのか」

「別に、ないけど・・・・・・」

目敏い男だ。
明らかにありそうな返事なのに、遠十郎は敢えて聞き出そうとはしなかった。
彼の優しさと気遣いが、ますます荒れかけの心にしみるようだった。

「そうか。気をつけて帰れよ。また何かあれば俺に連絡してくれ。もちろん、相談事も受け付けているぞ」

朗らかに笑って早苗を送り出してくれたが、早苗は未だに先程のことで悩んでいた。

記憶をなくしてから、もうすでに季節が二つも変わった。
このまま永遠に時仁とのことを忘れたまま、上書きしていくしかないのだろうか。
そう考えると、時仁に対する申し訳なさが溢れてしまってどうしようも無くなる。

記憶を失って目覚めてから今日まで、ひたすらに早苗に尽くしてきた彼に、何も与えられていない。
好きの気持ちも思い出せないのに、もらってばかり。

(なんて狡いのか・・・・・・)

口づけ一つで忘れられたら、どれほどよかっただろう。