小花は言葉通り、昼餉の時間に私を迎えに来た。

 朝と同じように、炎華と食事をする。
 炎華に、

「私が炎華の想い人だというのはどういうことよ」

 と抗議をしたら、炎華は面白そうに唇の端を上げた。

「そう言っておいたほうが、屋敷の者たちが安心するからな」

「ひどい誤解だわ!」

 憤慨する私に、炎華は構う様子はない。

「それに、あの部屋はどうなっているのよ。外に出られないのだけど! 想い人が監禁されているなんて、屋敷の者はおかしく思うんじゃないの?」

 閉じ込められていることにも文句を言う。

「ああ、あの部屋には術がかけてある。俺が決めた者しか開けられないんだ。だから、千代の世話を命じた小花は普通に出入りできるし、異常に気が付かない」

「鬼って、そんな術が使えるの……」

「いろんなことができるぞ。ほら、こんなことも」

 炎華が手のひらを上に向け、一度ぎゅっと握った後、ぱっと開いた。手の上に、炎が生まれる。

「……!」

 驚きで目を丸くした私に、炎華が、ふふっと笑いかける。

「百年も生きていれば、いろんなことができるさ」

「百年? あなた、百年も生きているの?」

 あやかしは長寿だと聞いたことがあるけれど、目の前の青年は、とても百歳を超えているようには見えない。

「百年生きていても、何もいいことはなかったな。時代の流れに揉まれ、鬼の一族を失い、残されたのは俺一人。――ああ、でも、お前に会えた。それだけは、良かったといえるかもしれない」

 優しい微笑みを向けられ、思わずどきっとする。

「わ、私に会えて良かったって、どういうことよ」

 動揺を悟られないようにつっけんどんに問いかけたら、炎華は、

「そのうち話そう」

 と言って、それ以上は教えてくれなかった。