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「ああ、頭にくるったら!」

 私は憤慨しながら、夜の(きょう)の街を歩いていた。
 数刻前の、兄弟子とのやりとりを思い返すと、はらわたが煮えくり返って仕方がない。

「何が、『千代(ちよ)をあやかし退治に連れて行けるわけがないだろう。女だてらに陰陽師になろうなんて片腹痛い』よ!」

 確かに、私の力は兄弟子よりも劣っている。けれど、陰陽師になりたいという気持ちだけは、誰にも負けない自信がある。

 私は四歳の時、陰陽師・時雨真継(しぐれまさつぐ)様に拾われた。
 母親と二人で暮らしていた記憶はうっすらと残っているけれど、四歳以前のことはほとんど覚えていない。母親が行方不明になり、一人取り残され、死にかけていた私を、真継様が助けてくれたのだと聞いている。

 真継様は、平安の時代から続く陰陽師の末裔だ。明治の世になり、陰陽師は政治の表舞台から消えたけれど、大正になっても組織は残り、裏の世界で活躍している。

 この世には、あやかしと呼ばれる異形が存在する。あやかしは、時に人を害する。真継様を頭領とする陰陽師の組織は、政府から命じられ、あやかしたちを退治する仕事を担っているのだ。

 私も陰陽師となり、恩のある真継様の役に立ちたいと願ってきたけれど、女である故に修行もつけてもらえず、女中として働く日々だ。

 けれど、実は、夜な夜な、陰陽道について書かれた書物が収められている部屋に忍び込み、密かに訓練を積んできた。少しなら術も使えるようになったし、今ならきっと、真継様のお役に立つことができる。それを証明するため、最近、亰の街を騒がせているあやかしを退治しようと、屋敷を抜け出してきたのだった。

「兄弟子たちが手こずっているあやかしを私一人で退治できたら、真継様は褒めてくださる。私を陰陽師として認めてくださるはず!」

 こぶしを握りしめ、気合いを入れる。