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 女中たちの目をかいくぐり、屋敷の外に出てみれば、周囲は木々に囲まれていた。どこかの山の中のようだ。
 炎華の屋敷はこんなところにあったのかと驚きながらも、傾斜を頼りに山を下りる。

 なんとか下山してみれば、場所は東山だった。ここからなら、御所隣にある時雨邸近くまで、市電が走っている。そう考えたものの、あいにくと手持ちがない。

 どうしよう、無賃乗車をするわけにいかないし、お金がなければ市電に乗れない。

 困っていたら、目の前を人力車が横切っていった。仕事を終えるところなのか、俥夫はゆっくりと歩いている。
 人力車なら交渉できる。時雨邸についてからお金を取ってきて支払うと言って、乗せてもらおう。

 私は俥夫を捕まえると、御所へ向かってもらうよう頼んだ。
 できるだけ急いで欲しいとお願いをする。
 人力車は軽快に、夜の街を走った。