うなされていた私は、うめき声と共に目を覚ました。
 体にびっしょりと汗をかいている。
 なんだか、遠い昔の夢を見ていた気がする。  
 布団の上に起き上がってみれば、日はとっくに落ちていた。

「私、寝てた……?」

 そうだ。炎華に気絶をさせられたのだ。きっと鬼の術で、私を眠らせたのだろう。
 ひどい、と憤慨したけれど、とりあえず、濡れた着物を脱ぎたい。

 昨日着ていた着物が衣桁に掛けてあるので、着替えていると、どたどたとした足音が近づいて来て、部屋の前で止まった。勢いよく襖が開く。

「千代!」

 焦った様子で顔を出したのは炎華だ。

「炎華。どうかした?」

 いつも落ち着いている炎華の取り乱した姿に胸騒ぎを覚え、尋ねると、炎華は、

「小花はここへ来たか?」

 と問いかけた。

「来ていないけれど……」

 嫌な予感を抱きながら答える。炎華は、

「やはりそうか」

 と、眉間に皺を寄せた。「わかった」と言って去って行こうとした彼を慌てて引き留める。

「待って! 小花がどうかしたの?」

 炎華は振り返ると、固い声で、

「夕刻から行方不明だ」

 と言った。

「行方不明?」

 どういうことだろう。鵺の部屋に行った後、彼女は鵺の看病をすると言って、残ったはずだ。

「鵺の怪我の薬がなくなったので買いに行くと、夕刻に出かけたらしい。夕餉の時間になっても帰らないと、女中から報告を受けた。嫌な予感がする」

「嫌な予感って……」

「陰陽師に襲われたのかもしれない」

「……!」

 私は息を呑んだ。

「俺は小花を探しに行く。必要であれば、時雨邸に乗り込む」

「私も行く!」

「千代はここにいろ」

「だって、陰陽師のしわざなら、私にも関係のあることだから」

 炎華に駆け寄り、袖を掴んで顔を見上げる。
 強い意志を込めて瞳を見つめると、炎華は苦しそうに顔を歪め、次の瞬間、ぎゅっと私の体を抱きしめた。

「駄目だ。連れてはいけない。同胞を――せっかく手に入れたお前を、俺は失いたくはない」

 同胞? どういうこと?
 戸惑っていると、炎華は私を離し、そっと頬に触れた。

「お願いだ。ここにいてくれ」

 そう言い残し、炎華の姿が掻き消えた。
 瞬間移動……? これも、鬼の力なの?

 驚きでぼんやりとしていた私は、すぐに我に返った。そして、自分が今、部屋の外にいることに気が付く。
 今なら逃げられる。

 ――逃げる? いいえ、違う。私は時雨邸へ戻り、真継様に真相を問うのだ。

 小花は本当に陰陽師に殺されてしまったのだろうか。
 人なつこい化け狸の少女の顔を思い出し、胸が苦しくなる。
 どうか無事でいて。