俺達も神殿の下、オーシャンの中心都市であるアトランティスより、やや少し離れた場所にある俺の住処に向かった。
その道中にアオが先程の事を話し始めた。

「今思ったけど、番組もそうだけど天海人組も皆美男美女だった」
「…………」

アオはオルカやカルチなど他の奴らの話をする。
なにも悪い話ではないが、アオが他の奴らのことを楽しく話してるのを見ると、何故かちょっとモヤモヤする感じがした。
今までこんな感情はなかったのに…何故だ?

「オルカはシャチでかっこよかったし、シャクナゲはかっこいい美人だった……ん?セラ?」
「…………」
「セラ?」
「……何だ?」
「なんで怒ってるの?」
「怒ってない…ただ、アオが他の奴らの事を楽しく話してるのを見ると、少しだけ変な気分になった」
「…もしかしてセラ、妬いてる?」
「妬いてる?」

俺が妬いてる…?
妬くとこんな感情なのか?

「…………」
「セラは初めてなんだ…私も久しく感じたこと無かったけど、好きな人や大切な人が出来ると、自然とその人ばかり見てしまうようになるんだ…その人が他の人と話したりするのを見ると嫉妬しちゃうんだよ」
「そうなのか…」
「嫉妬させてごめん」

アオは少し苦笑しながら謝った。
アオが謝る必要はない筈なのに。

「いや、アオが謝る必要はない…俺が初めてこの感情になったからだ…でも話聞けばそれは、俺はアオの事が好きだからこの感情になる…悪くはない」
「…でも妬きすぎはダメだからな?程々な?」
「分かってる」

アオと話しながらアトランティスの中央道を歩く。
やはり、陸とは違い店も人もかなり溢れていて、文明も技術も違う。
建物は白をベースにし、石をメインで作られた家で、技術面では、ある意味陸よりも遥かに優れている。
アトランティスの建物や技術は1万年以上前から受け継がれてきたものだ。
アオは陸との文明の違いを楽しんでいるのか、新しい玩具を与えられた子どもの様にはしゃぐいでる。
その様子を見ながら、必要な物を買いながら店を一緒に周り、住処に戻ってきた。

「そーいえば、7天の仲間とそんなに会話しなかったなぁ…」
「まぁ、お互い年齢も違いすぎるし何より久しぶりに会ったからな」
「久しぶりって……久しぶりに会ったら話すんじゃ?それに年齢が違いすぎるって……セラが上じゃ?」
「何を言ってる…。俺やエスパーダは1番下だ」
「え!?150歳でも下なの?」
「1番上から、イッカク、シャクナゲ、オルカ、カルチ、クレイオー、エスパーダ」
「イッカクって……あの一角獣のイッカク??てかイッカクらしき人……7天なのに1人来てなかったなぁ」

確かにイッカクは来てなかった。
イッカクは現7天のリーダーで、前槍進の名を持っていた戦士。
リーダーの名を持つのは伊達ではなく、魔力も戦闘もずば抜けてる。
それに、師匠がまだ7天に居た時の後輩だ。

「イッカクは7天のリーダーで、滅多に俺たちの所には現れない。現れるとした弟子であるエスパーダの前くらいだ。それに奴の魔力を受け入れる陸の人間はかなり激選される」
「じゃ、まだ番がいなかったから来てなかった?」
「かもな…。見つけたとしても直ぐに俺達の所には現れない」
「そっか…イッカクってどんな人?」
「俺もあんまり関わった事はないから、詳しくは分からないが…まぁ、一言で言うならオスかメスか分からない人だ」
「中性的って事?」
「まぁ、そんなに聞かなくてもバトルが始まれば会える。とりあえず荷物置いたら、バトルのルールをおさらいしとくぞ」

荷物を置いて、2人で住処近くの誰も来ることは無い修行場にきた。

オーシャンファイトの試合ルール
1,試合開始合図前に番と力の同調(合体・解放)をする。
2,どちらかの番と契者が同調解除されたら試合終了
3,どちらかが生命反応無くなったら試合終了
4,どちらかの心が善から悪、悪から善になった場合試合終了
5対戦相手は当日か前日まで不明

「3の生命反応が無くなったらって……」
「死ぬって意味だ」
「ですよねーやはり、何度聞いても実感ないなぁ…」

俺の言葉に驚くアオ無理はないか。
命をかけて闘うなんて陸の世界じゃ、兵士じゃない限りありえないのだから。

「だから、バトルに参加する戦士は番を死なせない為に訓練し、願いを叶わせるために最も様々な能力に長けた者を7天に選ぶ」
「死なない為に……」
「あぁ…それと、直ぐには試合はしない。互いに番と共に戦えるように修行期間が設けられている」
「修行期間?大体どれくらいだ?」
「1年」
「1年!?たったの!?短すぎじゃ……」
「言っとくが、オーシャンの1年は陸の時間だと5年だ」
「はぁ!?」
「時間の進みが陸と違って早い」
「ちょ、ちょっとまってよ……じゃあ、なんでセラはあんまり老けてないんだよ!?」
「オーシャンでは、老いと時間が違う。老いるのが遅くて、時間が早い……。もちろん、番になってオーシャンに来たお前も」
「え……」

番になった人間は一心同体……心も体も結ばれ、1人の人間と同じく、時間も老いも共にする。

「修行もそうだ。簡単に説明するなら、陸の人間が怪我で身体を陸上で動かせない時、どうしてもリハビリで動かす為に、負担が掛かりにくい水中でリハビリする時あるだろ?水中では身体に負担なくリハビリができ、陸上以上の筋トレが出来ると同じで、オーシャンで1年修行すれば陸で修行するより今より遥かに早く強くなれる」
「強く……」
「修行は番によっては様々だが、先ずは俺とお前はどの様にして闘うのかテストをしないといけない」
「テスト??」

俺はポーチから1枚の小さい紙を出し、アオに見せた。

「紙……?なんで紙が必要?」
「この紙は特殊な紙で、番になって一緒に闘う時にどの様に闘うのか、魔力を流してそれを示す紙だ…使うのは初めてだが」
「へー」
「闘い方は3パターンある」

1,指示型
陸の人間が天海人に指示をし闘う
2,共闘型
陸の人間と天海人が一緒に闘う
3,合体型
陸の人間と天海人が合体し闘う

「紙に穴が空けば指示型、紙が切れたら共闘型、紙が青く変色したなら合体型……」

アオに紙を渡すと、アオはそれをゆっくりと受け取り紙を見つめた。

「お前は、魔力を使うのは初めてだからゆっくりでいい……そうだな、頭の中で紙にゆっくり水をかけるようなイメージしながら、魔力を使ってみろ」
「水をかけるようにか……」

アオはゆっくりと目を瞑り、魔力を紙に流し始めた。
初めてだからか魔力は少し不安定だが、紙は魔力に反応し始めた。

「アオ、もういいぞ」
「ん……」

アオの手元にある紙は青く変色していた。

「青い……てことは」
「合体型だ……まさかとは思っていたが…」
「え?なに?珍しいの?」
「あぁ…」

合体型は古代種族の血や魔力を持たない限り出来ない型。
もちろん俺も古代種族だが、多分アオの中にある師匠の魔力が大きいのだろう。

「合体型になれるのは古代種族の血や魔力を持たない限り出来ない型だ。まぁ、お前の場合は師匠の魔力も血もあるから師匠の魔力に反応したんだろう」
「父さんの……」

アオは少し嬉しそうに微笑んだ、それはそうだ。
会いたいと思っている父親と同じ力と血を持ってる事に、親子として再確認が出来たのだから。

「アオ、この闘いはお前の命が掛かる。だから、俺は師匠が俺に教えたように、お前には全力で教えるつもりだ」
「わ、分かった。私も死んじゃぁ…父さんに会えない。なにより、セラと一緒に居たいし、私は夢がある!」
「夢…?」

アオは真剣な眼差しで俺をみる。
そして、満面な笑みをみせて。

「父さんとセラ一緒に暮らすんだ!それでね、もしできるなら陸かオーシャンで自分の水族館を持って、セラと一緒に経営したい!」

子どものような純粋な夢だが、俺からしたら俺の夢…願いに比べたらとても綺麗だ。
こんな綺麗な夢を持つアオに、俺は自分の願いの為に戦わせるのが罪悪感だらけ申し訳ない。
でももしかしたら、アオならば血塗られた過去を話ししたら理解してくれるのだろうか?
だけど、話をして離れたりはしないだろうか?
不安が積りに積もっていく。
情けないと思った時だった。

「もし、私の夢が叶えなくてもセラの夢や願いは叶えさせたいな!!」
「!?!?」
「どうしたんだよー豆鉄砲くらった顔して…セラ?」
「俺もだ……それに叶えたい夢がある…だけど、お前には今は言えない…すまん」
「そっか!いいよ!気にしてない…なんせ、人の夢や願いは聞き出すもんじゃない!」


またのその笑顔だ…初めて会った時もそうだった。
アオが見せるその笑顔はとても綺麗で美しく、俺の不安や恐怖を無くしてくれるような感じがした。

「今日はオーシャンに来たばかりだから、修行は明日にしよう。それにだ、まだ海中の波に慣れてないだろ?」
「まぁね、なんか…陸と違って波があるから若干身体が波に押されてる感じがする。」
「だろうな…とりあえずこれを指にはめてくれ」

アオに俺の鱗を素に作られた指輪を渡した。

「綺麗……てか、なぜ指輪??」
「それは、人間から天海人の姿に変えさせるのと、海中の波を緩和する指輪だ…。今の格好じゃ護服を着けたとしても周りからしたらかなり目立つ。人攫いにあったらたまったもんじゃない。それに、その指輪はお前がイメージした天海人になれるようにはしている」
「ほーん」

アオは俺から指輪を受け取り、ゆっくり指にはめた。
アオの指と指輪が隙間なくピッタリだ。

「綺麗だな……あ!?しまった!!!指輪はめる指間違えた!!やば!しかも抜けねぇ!」
「当たり前だ、一度はめたら抜けないようにしてる。俺が解除しない限りは」
「は??まじで?」
「どうした?指輪ならはめるところはどこでも……」
「よくない!」
「???」
「左手の薬指は……結婚した人が指輪をはめるところなの!私はまだ結婚してない!!!式もあげてない!!!」

アオは顔を少し赤らめながらも左手の指輪を見せる。
その様子は必死な様子だが、俺からしたら何故そこまでするか分からない。

「結婚……??あー……番になる事か?なら、俺とお前番として契りを交わしたじゃないか、なんなら妻じゃないか」
「へ?まさか、あの契りは……こっちで言う結婚なの?」
「言ったじゃないか、それに一生何があっても共にするためにお前には更に魔法呪もつけ…」
「あああああぁぁぁ……まだドレスも着てないし誓のキスもしてないのに!!」
「そんなに結婚や式をあげたいのか?」
「あげたいというか、夢じゃん…綺麗なドレスを着けてさ、大切な人と歩いて…誓のキスを…んっ!!!???」

アオは少し残念そうにしてるところをオレはアオの唇を塞いだ。

「んっ……ドレスや結婚、式は分からんが、これで問題ないだろ?」
「……か」
「???」
「戦士バカぁ!////」

ドス!!

「んぐっ!!?」
「結婚は、女にとって1番大事な事!!!」

アオの拳がスキをつかれて溝内に入る。
俺は、次第に膝から崩れ落ち地面に伏せた。
何故だ?間違えては……。
しかし、普通の陸の人間が俺に溝内入れただけなら何ともないが……。
魔力を解放したからか、地味に拳に魔力が溜まっていた…。
多分無意識のうちだと思うが。
だとしても、修行もしてない奴がここまで殴りながら魔力を出せるということはかなりの逸材だ。
アオと修行するのが楽しみになった。

「ちょ、せ……セラ!?セラ!!大丈夫!?」

倒れ込んだ俺を心配するアオの声が耳に入った。