住処に戻り、ヒフミが作った朝食を一緒に食べる。
アオが作る料理と味が似ていて、親子のようにきっとヒフミはアオに料理を教えたのだろう。
実に美味しい…だけど、アオのチャーハンには勝てない。

「ねぇ、アオ」
「なに?おばさん」
「明日また海に出るんでしょ?セラ君も一緒?」
「一緒だよ」
「そっかー、どうせなら行く前日だしちょっと久しぶりに下町観光してこれば?2人で」
「あー確かに、久しぶりに下町行こうかな…セラもここに来るの初めてだし…なーセラ」
「ん?なんだ?」
「今日はちょっと一緒に下町に行ってみよ」
「いいのか?」
「せっかくなんだから、若い2人はデートしてきな!」
「で、デート!?」

アオにとってデートは初めてで、そのせいかデートと言う言葉に若干驚いている。
もちろん俺も初めてだ…7天の中で2番目に堅いと言われて、仲間にメス達とデートに誘われたが断っていた。
だけど、今大好きなアオとデートする事に多少嬉しい。

「とりあえず私準備するから、セラちょっとまってて」
「分かった」

アオが準備しに行ってる間に、ヒフミにバレない様に素早く魔法で姿をそれらしくした。

「あら!セラ君素敵な格好」
「せっかくのデートなので」
「やはり若いから、ラフな服装でもそれらしくなるのねー羨ましいわ!」
「準備できたよセ…」

アオの声に気づき振り向くとオシャレしてるアオがいた。

「あ…セ…セラ」
「どうした?アオ?そんなに固まって」
「いや、なんでもない!うん!格好いいじゃん」
「あらあらー可愛らしい」
「からかわないで!//恥ずかしいから」
「はいはい、ほら行ってきな」
「うん、行ってきます」

アオに手を引かれ住処を後にし、俺達2人はデートを始めた。
お互いデートは初めてで、特にアオは緊張してるのか、握ってる手に少しだけ力が入ってる。
なんとまぁ可愛らしい姿なんだろうか…。
かくいう俺もこうゆうのは初めてで、何をすればいいのか分からないが、アオと観光地巡ったりお店など周ったりした。
周る度に、アオの楽しそうな表情が見れて俺も若干楽しい。
大切な人とデートするってことはこうゆう事なのだろう。

「楽しい」
「え?」
「俺、やはりお前を番にして良かったと思ってる」
「それはよかった、私も楽しいよ」

アオは八重歯を見せるような可愛らしい笑顔を見せた。
そして、アオとのデートも終わって、2人で住処までの道を歩く。

「セラ」
「なんだ?」
「セラはなんで、オーシャンバトルに参加したの?」
「願いを叶えさせる為に参加した」
「願い?どんな願い?」
「……それは」

俺が何故オーシャンバトルに参加した理由…。
それは、一族を復活させる為。
しかし、まだアオに言う勇気がなかった。
何故なら、この話するには俺の過去を話さなければならないからだ。
アオには俺の血塗られた過去の為に一緒に戦うと考えただけで俺自身に嫌気がさす。
アオには血塗られた道を歩んで欲しくはない。

「他にも願いはあったが、やはりアオと一緒に居たいのが俺の願いだ」

優しくアオの頭を撫でるとふにゃあとした笑顔を見せ、嬉しそうに笑う。

「へへ…ちょっと嬉しいな」

その笑顔が俺の罪悪感を締め付ける。
すまないアオ、お前にはまだ本当の事は話せない。
だけど、話すその時がこれば俺はちゃんとお前に話す。

「………」
「大丈夫だセラ」
「!?」
「セラが何か隠してるのは分かってた。それは、話したい時に話せばいいから」
「分かってたのか?」
「まぁ、多少はね……あ、内容までは分からないから安心して」
「……ありがとう」

しばらくすると住処に着いた。
着いた頃には夕方になっていて、丁度夕食時だ。

「今日の夕飯なんだろうなーヒフミおばさんの料理美味しいから、楽しみなんだ」
「お前の料理も美味いぞ」
「へへ、そう言ってもらえると嬉しいな!…ほら、入ろ!ただいまー!」
「あら、おかえりなさい!風呂も出来てるから直ぐに入りなー!」
「はーい」

俺とアオは帰ってきて直ぐに風呂に入り、夕食で他愛もない会話をした。
そして、明日の出発に向けて俺達は早めに寝る事にした。

「オーシャン…セラみたいな人間がいるのかぁー楽しみだなー!セラ、オーシャンはどんな所なんだ?」
「オーシャンは陸とは違って、#波候__はこう__#が不安定な所でオーシャンの中はお前が研究で見てる海中と違って、美しく珊瑚も溢れて多種多様な生物が住んでる」
「そうなんだ…オーシャンも国みたいに別れたりしてる?国境とかある?」
「あるにはある、俺が知る限り天海だけで、一族のみの国も合わせれば10各国だ…。その10各国をまとめてるのが」
「ポセイドン?」
「あぁ…」
「そっかぁー…最初は驚いたよ、まさかギリシャ神話の神が面白そうな事してるから」

互いに向かいあって寝てるが、アオは幼い子どもが珍しいモノをみつけた時みたいに、目を輝かせて、楽しみな感じがよく分かる。

「怖くはないのか?明日から今まで経験した事ないことをするんだぞ?」
「そりゃあ、怖い気持ちもあるよー初めてだからね。オーシャンバトルで死ぬ可能性もある。だけど、そればっかり考えてたら、今まで経験した事ない事を経験する時に楽しみが無くなるじゃん」

この2日間普通じゃ考えられない経験してるのに、アオは怖さもありつつこれから経験することに前向きな考えだ。
普通の人ならこんな事を言わないだろうが、探究心を持つアオだからこそ言える言葉だ。

「それもそうだな…明日は早い。そろそろ寝た方がいい」
「うん…おやすみセラ」
「おやすみアオ」

俺はアオを自身の腕の中に収める様に抱き寄せると、アオは安心したようにゆっくりと眠りについた。

翌日。
この時期の陸は暑い時期なのに、朝が早いとやけに涼しい。
それに、波も穏やかで潮風に乗って、海水の匂い微かに匂う。
そんな中、俺とアオは準備を済ませた。

「アオ…やはり行くのね」
「ヒフミおばさん…今度はもしかしたら帰って来れないかも…だから、おばさんから借りてた家の鍵返しとく…来る前に荷物の整理や掃除はしてたけど、念の為おばさん見た方がいいかも。もし、私が帰って来なかったら荷物は捨てていいから」
「荷物は捨てないわ、あの家はあなたのよ?いつでも帰って来れるようにするわ。それに、何があるのかは聞かないけど、あなたは1人じゃない。大切な人が居ることを忘れないで」

ヒフミはアオを優しく抱きしめた。
 
「うん」
「…セラ君、アオの事よろしくお願い…」
「大丈夫です、俺が何がなんでも護るので」

ヒフミは少し不安気な表情から安心したのか笑みを零した。
それはそうだ、実の娘のように育てたアオが理由をちゃんと言わずぼかして、離れていくのだから。

「海に出る前に、母さんの墓も寄ってから行くから…」
「アオ」
「ごめんなさい、おばさんワガママな姪っ子で…母さんの墓…よろしくお願いします」
「いいのよ、私はあなた達2人が帰ってくるの待ってるわ」
「ありがとう…行ってきます」

俺とアオはヒフミに見送られながら、ヒフミの住処を後にした。
アオは少し寂しそうな表情をした。
母親みたいに育ててくれた叔母から離れるのだから仕方ないのだろう。

「寂しいのか?」
「まぁね…母さん代わりに傍に居てくれた人だから…あの人のおかげで、学者にもなれたもんだし。…ほら、ここ母さんの墓があるお寺」

アオに連れられてきたのは墓地だ。
俺自身陸の人間の墓地を見るのは初めてだ。
オーシャンでは墓地はなく、亡くなった者は母なる海に帰るからだ。
そんな墓地の中をアオの後を追って着いていくと、1つの墓地にたどり着いた。

「久しぶり、お母さん」

墓に刻まれた文字は読めないが、どうやらアオの母親の墓らしい。

「中々墓参りに来れなくてごめん母さん。実は今日はお母さんに紹介したい人がいて……私、恋人が出来たんだよ…しかも天海人の…まさかお母さんと同じような恋愛するとは思わなかった」
「……」
「私の恋人のセラ…父さんの弟子なんだよ……それに、父さんも生きてるかもしれない。もしオーシャンバトルが終わって戻って来れるなら、母さんの前に父さんを連れてくるから」

墓に線香を立て、アオは母親がいるかの様に喋った。
そんな様子を見ていた俺は、墓の周りを見てとある事に気づく。

「この墓石…魔法がかけられてる」
「魔法?」
「この墓を守る為の魔法…周りを見てみろ、雑草が生えたりしてるのに、ここだけ魔法によって護られていて、雑草すら生えてない」
「じゃ…父さんは母さんが死んだ後にもきたってことになる……?」
「そうかもしれない…とりあえずそろそろ行こう。もうすぐ満潮だ。満潮時がオーシャンへの道が開かれる」
「分かった…じゃあね母さん」

アオは寂しそうな顔をしながらも、後ろを振り向きせずただ前を見つめ、俺と一緒に後にした。
その時のアオは俺の手を握った。
それは、何かを決めたかのように強く握っていた。


オーシャンに行くため、指定の浜辺に着いた。

「んで、ここがオーシャンに行く場所なの?浜じゃん」
「まぁ、そんなこと言うな…。もうちょっと待ってたら、皆集まる」
「皆?」

アオが不思議そうにしてると、後ろから馴染みがあり、1番厄介な奴の声が聞こえてきた。

「シィィィィィラァァァァァァカァァァァァァンンンンンンンスゥゥゥゥゥゥゥ!!セラァァァァ!!」

瞳は青銀で普通の耳鰭より固く鋭く、尾鰭は力強いのが特徴で、背中に1本の槍を担いだ奴がコチラに向かってくる。

「うわ!ちょ、セラ!なんか凄いやばい奴が走ってきた!!」
「はぁ………」
「会いたかったぜー!!」

そいつが勢いよく飛び上がり、俺に抱きつこうとしたのを、アオと一緒に避けた。

「んあ!?」

ズサァァァ!

浜にぶつかりそうなのを、上手く着地したそいつは…。

「熱苦しいぞ……エスパーダ」
「熱苦しいとか言うなよ!!幼なじみだろ!!」
「…………」

熱苦しく口煩いコイツは、俺の幼なじみで天海7天の槍進のエスパーダ・シリカプだ。

「その、素早さに鋭い耳鰭に大きい尾鰭……そして青、銀、黒……それにその名前……アンタもしかして、メカジキ???」

アオが言い当てたように、エスパーダはカジキ族だ。
カジキ族は産まれながらしも、スピードがかなり特化していて特にエスパーダはかなり速い。
戦闘では先程のスピードよりも速い。

「よく分かったなお前!!てか、めちゃくちゃ可愛いじゃん!!」
「うっ…」

エスパーダの押しにアオがタジタジになり、少しだけ後ず去りする。

「え、なに!もしかしてセラの番!?セラなんかやめてさ俺と……」

エスパーダがアオに言いよって来た瞬間。

「いい加減にしないか!!」

ドス!!

「んげっ!!」

エスパーダの頭に何者かの力強い拳がかまされた。

「ほぅ……」
「すみません…!私が不注意したばかりに、コイツが迷惑かけました」

現れたのは、黒髪を一束にしているメスが現れた。
見た感じだとアオより若くみえる。

「いや、構わない。いつもの事だから、気にするな。それより、お前はコイツの番か?」
「あぁ!名乗るのが遅れた!私はコイツの番で御樹(おき)クルミです」
「俺はセラだ……」
「私は深海アオ!!若いなー私より下?高校生??クルミさん、あなた、もしかしてアイヌの人??」
「え、なんで分かったんですか!?もちろん、私は高校生です」
「学者程詳しくはないけど、昔ちょこっと本で読んだことあるんだけど、御樹クルミ…カタカナに変えるとオキクルミ……アイヌの言葉で角を持った雷神って書いてたの覚えてたんだー」

アオとクルミが嬉しそうにメス同士の会話をしてる途中でエスパーダが…。

「そうさ!!こいつはなんだってこの俺を、ビンタ1発で惚れさせるぐらい強……」
「はいはい、あんたは黙ってろ」

エスパーダにビンタ与えたのは多分、エスパーダが粗相したのだろう。
それにしてもクルミに1発かまされるエスパーダは少しだけ情けない。
戦闘では頼りになるが、そう言う面ではかなりだめだ。
まぁ、エスパーダにしてはまともすぎるくらいな番を見つけたようだ。

「そーいや、セラ他の奴らは??まだ来てねーのかよ」
「俺が来た時にはいなかったが…」

エスパーダの問いに応えるかのように、後から馴染みのある仲間の声が聞こえてきた。

「クレイオーとシャクナゲなら先に行ったぞー」
「カルチ久しぶりだぜー!!」

銀色の耳鰭に尾鰭が特徴な、天海7天の刀光(とうこう)のカルチ・スパーディ。
その後に続くかのようにもう1人現れた。

「あの二人は唯一のメスだからな、仲良く行くのも当然だろうよ」
「……久しぶりだな、オルカ」

哺乳類族特徴な黒の耳鰭に尾鰭の、天海7天の忍辱のオルカ・シェーンチだ。

「久しぶりだな、セラそれに初めましてだなセラの番」
「すげー!!タチウオにシャチ……やはり名前に魚の名前が入って……あ、私は深海アオ!!」
「俺はカルチ・スパーディ……カルチって呼んでくれ、んで俺の番のレジーナだ」

カルチの後ろからコチラを伺うように小さなメスが現れた、これもまたアオより少しだけ下くらいなメスだ。

「あ、あ……えっと……レジーナ・ウォーカーです」
「か、可愛い……外国人だ!!」
「かかか、可愛いなんて!!!」

レジーナはアオの一言が恥ずかしがったのか、カルチの後に隠れた。

「すまんな、ちょっとレジーナは恥ずかしがり屋なんだ…悪い奴じゃないから、良かったら仲良くしてやってくれないか?」
「いよいよ、ゆっくり仲良くなれたら色々遊びたいし!」
「まぁ、そこはメス同士なんとかなるだろ…俺はオルカ・シェーンチだ…よろしく」
「シャチ!!オルカ!かっこいいな!よろしく」
「そして、私はオルカの番の能伊マツリだ」

オルカの次に挨拶してきた、オルカの番であるマツリはアオと同じくらいで、アオより大人びてる。

「綺麗だ…マツリさん」
「さん付けはいいよ、多分私とあなた同い歳だと思うし」
「え?」
「私25歳」
「同い歳!?嘘!?めちゃくちゃ綺麗!美人!」

アオは同い歳のメスに出会えて少しだけ嬉しそうにする。
そして、一通り挨拶し終えて、俺達はオーシャンへ向かう道が開くのを待った。

「すごいよセラ、皆の番美女だよ…私居場所間違えてない?大丈夫?」
「大丈夫だ問題ない。アオ…お前は最高なメスだ自信を持て」
「最高なメスって…知ってる人じゃないと、聞き方によっては危ない」
「そうなのか?」
「そーだよ!…まぁ、環境が違うからメス呼びを直せとは言わないけど…。一昨日の…その…またセラとその……」
「………」

アオが恥ずかしがりながら、小声で何を言いたいのかは分かった。
俺もこんなにも頬を赤く染めている可愛らしいアオを抱きたい。
が、あえて俺は言わないようにしたその時だ。

ザパーン!

さっきまで静かで穏やかな波が急に荒々しくなった。

「な、何!?波が急に」
「落ち着けアオ、やっと出てきたか…これがオーシャンの道に続く入口だ」

海水が渦を巻き、次第に海面にドアのような形になり、扉が開いた。

「さーて、久しぶりにオーシャンに帰るぞー」
「帰ったらお前達とタツノ酒場で呑みたいなー」
「あーいいなー久しぶりに呑むかー」

エスパーダ、カルチ、オルカ達は番を連れてゆっくりと入口に入って行く。

「これがオーシャンへの道…凄い」
「怖いか?」
「いや、怖くない!こんなにも…胸が踊ってたまらないんだ。まだ見ぬ海の世界をこれから見るんだ!もちろん陸も恋しくなるかもしれない。怖いことが起きるかもしれない。だけど!父さんにもまた会えるかもしれないし、何より私にはセラがいる!!セラがいるから怖くない!!」
「アオ…やはり、お前は最高なメスだな」
「やはり、メス呼びはなんか抵抗あるな…」

俺はアオの手を握り、手を引き入口に入っていった。