魔海、それは天海や深海とは別に存在する海。
位置的には天海、深海、魔海となっていて、魔海は太古の海の環境で太古の人、魔海人がいる。
昔は3つの海の戦士達が揃い、オーシャンバトルをしていた。
しかし、魔海人の戦士メガロドンがポセイドンに謀反を起こした。
その謀反はアトランティス……いや、天海を半壊した。
それから天海が完全復興には数年かかり、メガロドンは大罪人として、オーシャン中に広まった。

「ポセイドン様」
「やはりアイツがきたか?イッカク」
「はい」
「結界を破壊したか?」

イッカクはポセイドンに分かりやすいように、巨大な映像水晶に映し出した。

「はい。アトランティス…いや、天海全体の結界が何者かによって破壊されてます。今はなんとか結界班が天海全体に結界をはって、修復中。先輩…。いや、リヴィアタンの情報によれば、この映像通り深海7天とリヴァイアサンが魔界人のメガロドンと組んでると」

イッカクは先程の戦いを映し出した。

「やはりそうだったか。今回のオーシャンバトルでも、本来五分五分な奴らが10分も経たずにこちらに負けるのはありえない」
「奴らの目的は一体。それにポセイドン様、セラの番の事ですが…」
「あぁ、お前が何を言いたいかは知ってる。あの娘が神化し、海の魂を見たのだろ?おそらくだが、奴らはその娘を狙っていた」
「神化したってことは、あの番は…まさか」
「本来は言うべきではないが、あの娘はリヴィアタンの娘で、陸の人間と天界人のハーフだ」
「!?」

イッカクが驚くのも無理がない。
本来天海人と陸の人間…いや、オーシャンの人間と陸の人間が子どもを授かり、無事に産み育てあげるのは稀なこと。
番になれたとしても、子どもを授かるのはほぼ不可能。
言わば、天海人と陸の人間の間で子どもを授かることは、砂漠の中で米1粒を拾い上げるのと同じ。
だが、リヴィアタンはオーシャンバトル外で番になりその娘と妻を陸に残した事により、娘は今まで何も無く育った。

「ポセイドン様、私は陸の人間が神化するのはおとぎ話のようなものだと思っていました」
「おとぎ話だと思われても仕方ない。実際に稀だからな。だが、陸の人間が神化をするのは今回が初めてではない」
「!?」

ポセイドンは自身の玉座の裏側に行く。
そこには、ポセイドンの武器トライデントをはめ込むような壁があった。
そこにトライデントをゆっくりはめ込むと、玉座の目の前にある、アトランティスの紋章が描かれてる石版がゆっくり開いた。
そして、下からゆっくりと上がってきたのは、人1人入れる大きさの球体が2つ。

「これは…?」
「……」

ポセイドンは球体の中を見えるようにした。

「こ、これは!?陸の人間!?それに、その1人は…まさかポセイドン様」

中には陸の人間がいた。
そして、イッカクはかつて、リヴィアタン連行時に一緒にいた、リヴィアタンの番の姿を目の前にして、驚きが隠せれなかった。
なんせ、リヴィアタンの番であり、アオの母親は死んだとリヴィアタン本人から知らされているからだ。
そして、球体の中にいる2人はまるで、ポセイドンの魔法により眠らせられているような状態だ。

「この陸の2人の人間のメスは…かつてのメガロドンの番とリヴィアタンの番だ。ただし、こいつら2人はハーフではないがな…」
「…しかし、私はあの時、リヴィアタンの番は捕まえてないはず!なぜ、リヴィアタンの番がここにいるのですか!」
「我が連れてきたのだよ」
「!?」
「流石に、そのままだと怪しまれるからな、ダミーを作って死ぬようにした」
「何故そこまでして…」
「イッカク、神というのは世界を見るもの。そして、神と同じ存在があってはならないのだよ」
「つ…」
「メガロドンとリヴィアタンは禁忌を犯し、神の領域を踏み荒らした。特にメガロドンは神の領域を踏み荒らしただけではなく、私にまで刃向かって来たのだ。」

かつて戦士だったメガロドンは、このメスと共に闘い愛し合っていた。
だが、皮肉なことに陸の人間は、我々神やお前達より脆かった。
そのメスは、オーシャンバトル後に不知の病に犯されてしまった。
メガロドンは日に日に、番が弱くなっていく様子が耐えきれず、自身の魔力を完全に渡すことにした。
本来魔力を番に渡すことは可能だが、渡すと言っても貸すようなものだ。
戦いが終わったら、同調交尾などで本来は魔力を返される。
完全に魔力を渡すことにより、肉体的にも強化され不知の病を治すことは出来た。
だが、メガロドンの魔力は凄まじかった為…このメスは暴走。
かつての天海、深海、魔海7天が来た時には、すでに神化が始まっていた。
愛しい番を護る為にメガロドンは謀反を起こした。
もちろん、他の魔海の7天達もな。
しかし謀反は失敗し、番を私の所に連れていかれ、その後メガロドンとその他の戦士は魔海の奥底へ追放した。

「……まっ、待ってください!なら、そのメスをなぜずっとこの中に?あの時、このメスをメガロドンに返せば被害が…」
「それは出来ない」
「何故です!?」
「神化した陸の人間の魔力は、神にも近い魔力を持ってる」
「まさか…」
「そう。神の領域を犯さずにして、この2人の暴走を眠らせる為に溢れ出す魔力を、アトランティスの動力源として使っている」
「!?」
「だからだろう。奴はこのメスの代わりにする為に、セラの番を強制神化させたのは。だが、もう1つ気になるのはリヴィアタンだ」
「つ…」
「イッカクお前は7天の中でリーダーだ。分かるな?私はお前に期待してる。今すぐ、リヴィアタンに連絡を入れ、セラ、リヴィアタン、その娘を私のところに連れてこい。いいな?」
「……はい」

オーシャンバトルが、メガロドンの奇襲により途中で終わった。
あの後、アオは念の為クレイオーとその番である充によって治療された。
幸いにも傷はなく、あるとしたら俺が付けた術式だけだ。
俺はあの後、オルカやラキエル、イッカク以外の皆にアオの事と自身のことを話した。
あんな状況で、グズるにはいかなかった。
アオを護るためなら、腹を括った。
しかし、皆は俺が術士なことは気にしなかった。
寧ろ、エスパーダの奴に初めっからバレていた。
そこからだ、ポセイドン様からの命が来るまでの間、俺は回復したアオと一緒に修行を再開し、前よりもキツめの修行をし、作戦決行2日前だった。

「セラどうしたの?波を見つめて」
「いや、なんかやけに波が静かというか、嫌な血の匂いがする」
「私は何も…」
「アオ、今日は住処に居た方がいい」
「え!?まだ修行始めたばかりじゃん!」
「………」
「セラ?」
「アオ、今日は住処に…」
「まって!」
「!?」
「この子も連れて行って!修行中ずっと私たちのこと見てた…もしかしたら、一緒に修行をしたいのかも!」
 
アオは両手でモユククサウオを、期待の眼差ししながら持った。

「そんなに連れて行きたいならペットにすればいい」
「え!?ペットにできるの!?」
「とりあえず、住処に戻るぞ」

モユククサウオを抱いてるアオの手を引き住処に戻ってきた。

「どうしたのセラ?今日はなんか変だ…」
「…………」

俺の勘違いならそれでいい…だが、今日のこの感じは俺にも嫌なくらい分かる…。

「……!?……アオ、少しの間だけだがすまない」
「ん…セ…ラ?」

アオに眠りの魔法をかけ眠らせた。
眠ってしまい、倒れそうになるアオを抱き上げて、ゆっくりと寝床に寝かせた。
これで、しばらくは目が覚めないだろう。
そして、モユククサウオに従者契約しアオの見張りとして傍に置いた。
アオの腹部に優しく触れると、アオとは別の魔力が感じる。
アオには言ってなくて、治療の時にクレイオーから先に言われた。
アオのお腹の中にアオと俺の子どもがいる。
まだ形はちゃんと成してはいないものの、ちゃんと生きて形を成そうとしてる。
クレイオーからは奇跡に近いと言われたが、状況が状況だからか、喜びたいのに喜べない。
だが俺は、アオとこの子の為に術をを使って戦う…。
おそらくだが、アオが起きてたらアオも一緒に戦いたいと言って、聞かなかったのを考えたら、今のやり方が先決だ。

「戦いがおわったら、ちゃんと祝う。それまで待っていてくれ」

俺は何かあったときの為に腹部に魔法壁をかけた。

「俺はちょっと師匠の所に…アオのことは頼んだ」
『分かりましたご主人様』

住処全体を魔法壁により護らせた。

「しばらくは安全だ…」
「そうも言っとれんぞ」
「師匠…」
「……セラ、お前はアオを死なせる気か?こんな弱い魔法壁は直ぐに壊される」

師匠は俺の魔法壁を上書きするようにさらに強化した。
「情報がいってるとは思うが…」
「メガロドンとアオの事ですよね」
「あぁ…で、お前はどうしたい?」
「俺は…アオを人柱にはさせたくはない…」
「神を裏切る行為になってもか?」
「……アオを失うよりかは幾億幾千マシです」
「…ならもう言わなくても分かるだろ?」
「仲間が敵になろうが俺は戦います…」
「じゃ行くぞ」

師匠は俺の言葉を聞いて互いの考えが同じなんだと感じたらしい。
父親としてもっともだ。
なんせ、この戦いには師匠の血を引くアオが狙われている。
ポセイドン様はアオをメガロドンに渡らない様に、自らの手により封印するらしい。

「そこまでだ…セラにリヴィアタン」
「やはり、お前を送り込んで来たか…イッカク」
「大人しく、娘を連れてポセイドン様の元に来い」
「断れば?」
「力づくでも連れていく!」

イッカクは自身の武器を召喚し身構える。

「どうやら、許してはくれないようだな」
「例え、かつての先輩だったとしても、ポセイドン様の命に背くやつは許さない!」
「セラ、イッカクは俺がやる…お前は先にメガロドンの所に行け」
「分かりました」

イッカクは師匠に素早くたたみかける。

キィィン!

イッカクの武器でもあるランケアが、師匠の防壁に当たる。

「昔よりかは戦えるようにはなってるな」
「昔の私はもういない!」
「確かに、泣き虫で後からついてくるような奴の顔つきではないな」
「私は貴方が7天を去ってから1人でここまできた!」
「なるほど、強くなったわけだな?なら何故だ?何故お前の鋒がぶれている?本来のお前なら、ブレないだろ?」
「黙れ!」

ガァァン!

イッカクの攻撃が凄まじく、リヴィアタンの魔法防壁にヒビが入る。

「……」
「私は引かない…絶対に!もうあの時みたいにはならない」
「イッカク」
「!?」

ドス!

リヴィアタンの重く素早い蹴りが、イッカクの腹部に入った。

「んぐっ!」
「イッカク、お前はさっきから何と戦っている?」
「っ……」

イッカクはよろめきながらも立ち上がる。

「……戦いに迷いがあるやつとは戦えない。お前なら分かるだろ?」
「……」
「お前はポセイドン様に真実を言われ命令で来たが、私情をも入れてここに来た。だが、私情を入れた事によってぶれた」
「!?」
「俺が分からないと思うか?お前があの時から俺に好意を抱いてたのは知っていた」
「……じゃ、何故、とどめを刺さないんですか。貴方なら刺せるはずなのに」
「それはお前が1番わかるだろ……。お前は番の事を」

「イッカク!!」

イッカクの番が後から現れた。

「スティーブ…」
「お前、いきなり置き手紙置いていなくなるとか、聞いてない!!」
「……」
「アンタは?」
「俺はコイツの先輩だ」
「アンタが…リヴィアタン」
「その様子だと俺の事は聞いているみたいだな」
「ま、まぁ…」
「この俺が言う権利はないが、イッカクの事をメスとしてよろしく頼む。こいつは強く見えても弱い部分がある。それに、こいつはお前の事を愛してる。愛してなかったら、俺を躊躇いなく討てた」
「イッカク……」

イッカクは膝から崩れ落ちる。

「……私は戦士として失格だ。ポセイドン様の命令をこなす事もできず、昔好いた男にこんなにも言われて、初めて自分の気持ちに気づいてしまうとは」

イッカクの瞳から涙が溢れた。

「私は…自分の気持ちに……私はスティーブの気持ちに気づいてたのに、先輩と同じようなことしていた。先輩と同じになれば、先輩への気持ちを隠せるかなって…でも、スティーブと一緒にいるに連れてスティーブを愛してしまった。だから、ポセイドン様の命令には従え…」
「もういい」

スティーブが泣き崩れるイッカクを抱きしめた。

「イッカクはイッカクだ。誰かにならなくてもいい…」
「スティーブ…」
「感動なところすまないが、イッカクにスティーブ。俺と来るか?」
「……もちろんです先輩。ポセイドン様がやる事は非人道的なことだ」
「流石だイッカク。ほら行くぞ」

俺とイッカク組でセラの後を追った。
そして、魔界に行く途中で、アオ以外の番の陸の人間組はオルカの村で匿うことになった。
アオはハーフなため多少は何とかなるが、その他の人間だと運が悪ければ死ぬ可能性があり、それを考えたら匿うことが1番いいと考えた。
それに、戦闘に特化したシャチ族の村ならそう簡単には落とせない。

「先輩」
「なんだ?」
「先輩はポセイドン様が、先輩の番を持っていること知っていたんですか?」
「……」
「その様子だと知っていたんですね。なら、メガロドンと先輩は」
「イッカク、この事は絶対に誰にも言うなよ。これは世界を救う為の作戦。バレてしまったら意味が無いのだから」
「…貴方らしい」
「さぁ、スピード上げていくぞ!」
「はい!」

リヴィアタンとイッカクは物凄いスピードで、魔界を目指した。