「アオ!」
「……」
「アオ!しっかりしろ!アオ!」
「ん……」

重たい瞼をゆっくりと開くアオ。
先程の魔力の暴走により、俺の封印術により何とか仮封印が出来たのだが、衝撃からかアオは気を失っていた。

「よかった…」
「セラ…」

アオが傷もなく無事な事が何より安心し、俺は腕の中にいるアオを優しく撫でて、ゆっくりと起き上がらせた。

「大丈夫かアオ?」
「お父さん…うん。大丈夫」
「そうか」
「お父さん」

アオは少しだけ思い出したかの様だった。

「さっき夢で…」
「……」
「お父さん、私…」
「リヴィアタンさんが、封印したのをメガロドンの共鳴により解かれたんだな」
「あ、うん…」

ラキエルとオルカが後から現れた。

「オルカにラキエル…なんで2人が?マツリは?」
「色々あってな、マツリなら大丈夫だ。あそこで姉妹揃って話してる。アオも行くといい、俺等はちょっと話したいことがある」
「……分かった」

アオは少しだけ不安気がありながらも、マツリの方に行った。
アオも入れて話をしたかったが、これに関してはアオを入れて話してしまうと、余計に不安にさせるのと、アオの事だから、何かしら勝手に動かねないと思い、アオを抜きにした。

「はじめに、セラ。何故、アオが天海人とのハーフなのと、自身が術士だった事を隠してた?」
「…アオがハーフなのを隠していたのは、アオの身を守る為だ。それにだ、俺だって初めからアオがハーフだって知らなかった。術士に関しては、己を守る為だ。師匠に弟子入りした日からずっと隠していた。この世界は術士には厳しいのを、お前達なら分かるだろ?」
「まぁな。まぁ、別にそれを攻めることはしない。だが、事態が事態だ。術士としての力も使わないといけなくなる」
「そうだな」

師匠とラキエルの話しによれば、2人はアオがメガロドンに狙われているのをはなっから知っており、深海にいながらも、ずっとメガロドンの監視を続けてたらしい。
そして、メガロドンが成そうとすることが簡単にだが明らかになり、それには産まれながらしも、魔力を持っているアオが必要だと言うこと。
アオは、先程の暴走により神化してしまっている。
神化はオーシャンでは、おとぎ話の様な物くらいなことで、それが天海人ではなく、ハーフであるアオに起きた。
神化すれば、神同等の力を得る事になり、それは神にとっては脅威な為、ポセイドン様が黙ってはいないのは確かだ。

「しばらく、アオは俺とセラが監視する。ラキエル、引き続き偵察を頼む」
「分かりました」
「んじゃ、俺も」
「オルカ、お前も行くのか?」
「弟だけじゃ、何かしらしでかすからな。今この状況で戻るのも危険だからな。俺達は故郷で身を潜めながら、他の奴らとも連絡取り合えるかどうか確かめる。」
「…確かに、仲間は多い方がいい」
「それじゃ兄上、マコトとマツリを連れて行きましょう」

どうやら、オルカとラキエルの溝は埋まったみたいだ。
ラキエルは謀反で捕まった罪人だが、実はラキエルはこのオーシャンの異変に先に気づいていた。その異変の原因はまだ分からないが、オーシャンの異変は一族にも関わる重大な事で、原因は魔海にある所まで突き止めた。
しかし、魔海に行くには容易い事ではなく、師匠の手を借りて謀反を起こした。
オーシャンでは、謀反は重罪になり、起した者は深海に堕とされる。
ラキエルの場合はオルカが嘆願したから、幽閉で済んだんだが。
深海に堕とされた者は、許しがない限り天海には行けず、更に罪を兼ねたら魔海に落とされるのをラキエルは知っていたため、先程の闘いで禁術を使い、先に堕ちて魔界に行き、ゲートを開き師匠を来させる予定だったのが、メガロドンの奇襲により作戦を変えることになった。
その事を、ラキエルはオルカに伝えた時は喧嘩になりかけたが、師匠が全力で止め、アオが目覚める前までにいたる。

「アオ、大丈夫?」
「大丈夫」
「……」
「君は大丈夫?えっと……マツリのお姉ちゃん」
「私は大丈夫だよ」
「ならよかった。それにしても双子にしてはかなり似ているね、一卵性双生児?」
「そうだね、私達は双子の姉妹。だけど、親の離婚により、4年生の時離れ離れになった」
「そうなんだ…」
「でも、こうやってやっとマコト姉さんと会えたから、私は一安心してる。離れ離れになってから、お母さんが厳しくなって、父さんやマコト姉さんの事は忘れなさいって言われ続けて、ずっと監視の目があったの。そんな時オルカと出会って、私を自由してくれたの。私の願いはマコト姉さんに会うことだったから、ある意味叶った」

マツリは少しだけ寂しそうに話す。
それもそうだ、幼い時に家族が離れ離れになるのは辛く、どんなに会いたくても会えないのは苦しくもどかしい。

「そっか……家族に会えてよかったね」
「…君はどうなんだ?」
「え?」
「さっきから、家族に何かあるような様子をしてるんだが?」
「家族。まぁ、そうだね…。私、お母さんは小さい頃に病気で亡くなって、兄弟や姉妹が居ないし、お父さんとはずっと亡くなったと思ってたのが、まさか生きてたけど、どうすればいいのか分からないんだ。ましては、今なんか凄いことになってるみたいだし。頭が混乱している」

アオは幼い時に両親を失う経験し、更には周りからも虐められていた。
いくら叔母のヒフミがいたとしても、家族に対する想いは想像絶するものなのに、独りで耐えてきた。
そして、今日まで普通じゃ経験した事ない事を経験してるからこそ、多分精神的にきてるかもしれないし、不安だからこそ混乱しているのだろう。
そんな様子を見たマツリが、優しく微笑んだ。

「…ありのままでいいんじゃない?」
「え?」
「親子なんだろ?」
「うん」
「親子なら、普通に今の気持ちを言って、甘えればいいじゃん。それにセラもいる。セラね、アオが気を失っている間ずっと傍にいて守っていた。会場から離れる時も、負傷しているセラをみたオルカが、セラの代わりに担ごうとしたら、物凄く怒ってね、あの冷静が取り柄みたいなセラがオルカと喧嘩寸前までいったの」
「……」
「おーい!マツリ!マコト!そろそろ行くぞ!」
「分かった!…アオ、不安な時こそ甘えるのも大事、貴方には大切な人がいるんだから」

そう言って、マツリとマコトは直ぐにラキエルとオルカの方に行き、オルカ達は作戦通りに動くことになった。

「……」
「アオ、大丈夫か?」
「セラ…うん」
「…ほら、こっち来い。まだそんなに身体が動かせる状態ではないからな…おぶってやる」
「大丈夫だよセラ。1人で歩ける」

アオが珍しく断った。
 
「どうした?いつもなら…」
「ねぇ、セラ。セラは怖くないの?」
「え?」
「セラは戦うのは怖くないの?」
「……」

アオは俺達に背を向けながら、何かに怯え声を震えながら話し始めた。

「私は…セラと出会ってから今日まで、修行をして父さんと戦って、今こうしている。セラが居たから、父さんを助ける為、必死に頑張ってきた。だけど、あの時…私が気絶する前、凄く怖かった。身体から叫び上がり、苦しく私ではなくなるような。私みたの…父さんやセラ達が…このオーシャンが血で染まっているのを…今このオーシャンで何かが起きようとしてるのも、無くなっていた記憶も」
「…海の魂をみたんだな」
「師匠、海の魂って…」

海の魂。
それは、海全体に起きた事を全て記された魂。
このオーシャンでも海の魂を見れるのは、神と巫だとされている。
しかし、神化した神に近しい者なら、海の魂を見てもおかしくはない。
だが、海の魂は何万年の記憶が刻まれていて、並大抵の人間じゃ魂を呑み込まれてしまう。
それをアオはあの一瞬で全て見たとすれば、アオは既に…。

「うっ…ひっく…父さん、セラ。私は怖い…。幾ら父さんやセラが戦えるとしても、もう大切な人を失いたくない。」

背中からでも分かる。
アオは必死に耐えてきたこと、先程の恐怖からどうしたらいいのか分からなくなっている。

「アオ」
「うっ…ひっく」
「約束する。俺はお前を絶対に1人にはさせないし、師匠だっている」
「うん…」
「それにだ!お前、前に言ったろ?自分の水族館を建てるって。俺もアオの夢を叶えさせたい」
「セラ…」

アオは泣きながらも、俺に抱きついてきた。
よっぽど怖かったのだろう…。
俺が早く気づいてたなら、アオをこんな怖い思いせずに済んだかもしれない。
俺は優しくアオの頭を撫でる。

「済まなかった怖い思いをさせてしまって」
「う、うん…。でも、もう大丈夫」
「……」

アオは涙を拭き、何かを決意したかのように、先程までの涙目がいつもの真剣な眼差しのアオになった。
  
「セラ、父さん。私は戦う…私は海が好きだ…。母さんが愛したこの海が!そして今、この海を破壊しようとしているのはメガロドンじゃない!メガロドンもこの事を知っている!何か…もっと嫌らしく恐ろしい何者かによって破壊されそうになっていることを!」
「ふっ、流石だな」
「…師匠?」

師匠は何か知っている様な口ぶりをした。

「そうと決まれば、準備をしないとな。メガロドンがいる魔界に向かうのは、そう簡単じゃない。それに、今動いてしまうと天海軍に目をつけられるからな、動くとすれば1週間後だ」
「1週間後…」
「深海の奴らは既に軍に目をつけられているからな、下手な動きは向こうも出来ない」
「確かに…。アオ、とりあえずお前は今日は休め」
「!?…私はまだ!」
「アオ、休息は大事だ。戦うにしろ、戦闘で体力不足で足手まといになったら命がない」
「……」

不服そうにするが、師匠が言ってる事は間違ってはいない。
体力不足は戦闘において、敵に隙を与えかねないからだ。
そんな不服そうにするアオに、師匠は優しく頭に手を置いた。

「!?」
「…俺の娘はお前しかいない。もっと自分を大切しろ」
「父さん…。うん、分かった」
「…セラ、アオと先に戻っておけ。俺はちょっとリゲリィアの所にいってくる」
「分かりました、行くぞアオ」

俺とアオは師匠に言われた通り、直ぐその場から離れ住処に戻っていった。

「見ないうちにアオは、ホタル…お前みたいに何がなんでもやる精神がついたみたいだ。」
『だって、私とリヴィアタンの子だもの』
「そうだな」
『リヴィアタン』
「なんだ?」
『私の事はアオに黙ってくれてありがとう』
「…よかったのか?話さなくて」
『今、私の事話せば…あの子絶対に私の事も考える。それに、あの子がちゃんと優しい大人になって、素敵な人や友達が出来ているのを知ればそれでいい』
「…そうだな。ホタル」
『それに、この事は貴方がやるって言ったんだから』
「あぁ…。俺はお前を絶対に助ける。待っててくれ」

リヴィアタンは強く拳を握りしめ、直ぐにリゲリィアの元に向かった。