「オルカ」
「何？母上」
「今日から、オルカはこの子のお兄さんになるんだよ」

オルカの母親、シルキーは身篭ったお腹を優しく撫でながら、オルカに話す。

「母上、お兄さんってなに？母上はなんで、お腹大きいの？食べ過ぎ？」
「食べ過ぎって…もう、本当にお父さんに似て面白いんだから。そうね…お母さんのお腹の中にね、赤ちゃんがいるのよ」
「赤ちゃん？」
「そう、赤ちゃん。オルカもお母さんのお腹から産まれたんだよ」
「…じゃ、産まれてくる赤ちゃんは何になるの？」
「貴方の弟になるのよ」
「ふーん」

幼きオルカは、シルキーの言葉を全部理解は出来なくても、シルキーのお腹にいる赤子は、自分の弟になるのだと理解しながら、優しくシルキーのお腹を撫でた。

「焦らなくてもいいからね！産まれてきたら一緒に遊んだり、宴しよ！」
「宴って…もう」

シルキーは少しだけ呆れながらも、優しくオルカの頭を撫でた。
戦士のシルキーとしてではなく、今オルカと2人の時は母親としてのシルキーだった。
そんなシルキーをオルカは母親として愛し、尊敬していた。
この世界の幼き子どもなら、親を尊敬するのは当たり前で、親が強ければ強いほど、子どもも尊敬し逞しく育っていく。
陸の世界で言うならば、親の背中を見て育つのと同じ。

「母上、赤ちゃんまだ産まれないかな」
「そうね、でもそろそろと言われたからもうすぐ逢え…」

シルキーは何かお腹の異変に気付き、オルカとの会話を止めた。
　
「母上？」
「オルカ、直ぐにおばあちゃんを呼んできて」
「う、うん！」

オルカはよく分からないまま、シルキーに言われたとおり、自身の祖母を呼んできて、直ぐに出産の準備をした。

「父上…母上大丈夫かな？」
「だ、大丈夫に決まってる！なんせシルキーだ！」

オルカの父親、ハッカイは強く言葉を口にするが、表情はかなり焦っており、額には大量な汗が溢れ出ていた。
　
「父上、言葉と表情が合ってない。父上も心配なの？」
「あぁ、心配だ。オルカ、メスの出産はな命懸けなんだよ、死んでもおかしくはないくらいにな。それに、オスの俺らじゃ一生経験出来ないような痛みを、お母さんは経験してる。俺達オスは確かに強ければ強い子孫を残す事ができる…だがな、本当に強いのはオスじゃなくメスだ。子孫を残すにしろメスは必要になってくる」
「…必要？」
「だから、オルカ。もし、お前に心から愛せるメスが現れたのなら、何があってもそのメスには優しくし支えてやるんだ」
「うん」

ドドド！！バン！

「！？」

足音と共に障子を勢いよく開けられ、1人の薬師が報告しにきた。
　
「ハッカイ様！赤子が産まれました！母子共に無事です！そして予言通り、元気で立派なオスです！」
「そ、そうか！」

オルカとハッカイは急いでシルキーの元へいくと、出産を無事に終え、疲れながらも赤子を抱いているシルキーの姿があった。

「母上！」　
「オルカ、ほらこっちへおいで？」

シルキーに呼ばれ、ゆっくりとシルキーの傍に行くと、シルキーは腕の中にいる赤子を、オルカにも見えるようにした。

「オルカ、今日から貴方はお兄さんになるのよ？」
「お兄さん…」

シルキーの腕の中で気持ちよく安心して寝ている赤子を見たオルカ、オルカにとっては赤子を近くに見るのは初めてで、ゆっくりと産まれたばかりの赤子の手を優しく触れた。

「母上、父上…僕。お兄さんとして、この子を守る！」
「そうか！」

オルカは兄として、産まれたばかりの赤子…ラキエルを弟として受け入れ、両親とは違った兄弟の愛を誓った。