あれは遠くて懐かしく切ない思い出。

「やーい!!弱虫!!」
「うっ、うっ…」
「コイツ、肉食クジラ族のくせに、小さくてよえーぞ!」

数人の子ども達に囲まれ、1人の小さい少年は虐められていた。
他のクジラ族の子どもより小さく、弱々しく見えるその子どもは、幼きリヴィアタンだった。
 
「コラァァァァ!!また、お前たちリヴィアタンを虐めるなぁぁ!」

リヴィアタンの危険を察知したのか、1人の幼き少女が全速力で向かってきた。
 
「げ!?シルキーだ!!馬鹿力シルキーがきた!」
「怯むな!数はこっちが上だ!今日こそ、あいつをボコボコに…」
「リヴィアタンから離れろぉぉぉぉぉぉ!」

少年に隙を与える事はなく、少女は勢いありの素早くリヴィアタンを虐めた、少年を次々とこらしめていった。
 
「うわあああ!!覚えとけよー!!」
「今度、リヴィアタン虐めたら容赦しないからな!!」
「…うっ、シルキー」
「もう、大丈夫か?リヴィアタン」
「うん」
「ほら、手を貸すから」

そう、リヴィアタンを助けた少女は幼き頃のシルキーだった。
親になったシルキーとは違い、幼くて可愛らしくても、逞しさは変わらない。

「リヴィアタンは悔しくないの?アイツらや私よりも頭もいいし狩り漁も上手いんだから、少しは強くなりなよ!」
「だって…」

幼きリヴィアタンは、今とは全然違い気弱でシルキーに心配されるほどだった。
シルキーはそんなリヴィアタンが心配で、いつも気にかけては、一緒に遊んだりしていた。
 
「そうだリヴィアタン!私が鍛えてあげる!」
「へ?でも、シルキー…家の訓練だって」
「なら、リヴィアタンも一緒に訓練すればいいじゃん!」
「でも、シルキーのお父さんやお母さんが」
「大丈夫だって!ほら!行くよ!」
「ちょ、シルキー!」

このやり取りがきっかけで、リヴィアタンはシルキーと一緒に訓練を受け始めた。
リヴィアタンにとって、シルキーとの訓練はかなり厳しく辛いものだった。

「シルキー、やっぱり辛いよ」
「諦めるのか?」
「…諦めたくない」
「リヴィアタンのお父さんみたいな戦士になるんだろ?優しくて強くて」
「うん」
「なら、諦めちゃダメだ!それに私は一族の長になる!私が長になれば、リヴィアタンの一族と仲良くなって1つの国を作るんだ!」
「シルキー…」
「だから、リヴィアタン!その時はリヴィアタンも一族の長になってくれ!」
「うん!」

そして、シルキーとリヴィアタンは互いに助け合い、互いに高めあっていった。
訓練を受け始めて、暫く経ったそんなある日の事だった。

「リヴィアタン、シルキーを見なかったか?」
「いえ、見てません」
「そうか、そろそろ訓練の時間なんだが…」
「…ぼ、僕シルキー探してきます!」

リヴィアタンは少しだけ嫌な予感がし、直ぐにシルキーを探し始めた。
いつもの場所にもシルキーはおらず、探し周り尽くそうとしたその時だった。

「離せ!」
「!?シルキー!」

シルキーの声が聞こえ、急いで駆けつけるとそこには、拐かされそうになっているシルキーがいた。
シルキー1人に対し、大人のオスが3人。

「シルキーを離せ!」
「なんだぁ?」
「リヴィアタン!だめだ、こいつらは普通の奴らじゃない!コイツらは私達の一族を狙う奴らだ!リヴィアタンじゃ…」
「大丈夫だよシルキー」
「!?」
「見られちゃ仕方ない!殺せ!」

シルキーを捉えたオス以外が、リヴィアタンを目掛け襲いかかってきた。

「死ねぇぇ!!」

 ドォォン!!

「なっ…なんだと…」
 
リヴィアタンは自分の身長を生かし、オス2人の攻撃を軽々しくかわし、電光石火の如く素早く、懐に入り2人の急所を突いた。

「ど、どうゆう事だ!その技はシャチ族特有の技、シャチじゃないてめぇがなぜ…んぐぅ!?」
「耳元で煩いぞ」

シルキーは隙をつき、捕まえた男の顔を頭突きし、不意打ちを突かれたのか、オスはその場で崩れ落ち気絶した。
 そしてシルキーは素早くその場から離れた。

「シルキー!大丈夫!?」
「リヴィアタン…」
「ほら、直ぐに縄を解いてあげる」

シルキーの縄を素早く解き、シルキーを自由にさせ、直ぐにその場を後にした。
この事を直ぐに、シルキーの一族に伝えると一斉に拐かそうとしたオス達を捕らえにいった。
 
「リヴィアタン…ありがとう」
「シルキーが無事でよかった」
「…私ね諦めかけてたの、リヴィアタンじゃ敵わないかもしれない。せめて仲間を呼んでくれたらって…でも、あの時、リヴィアタンがは逃げずにアイツらと戦った。弱虫で泣き虫、あのリヴィアタンが強くなってるから、私驚いた」
「シルキー…約束したでしょ?心優しい強い戦士になるって」
「…そうだね」


強き戦士2人の幼く懐かしい思い出。
この思い出は、2人しか知らず誰も知らない思い出。
この思い出があるからこそ、1人の男は強き戦士になり名をオーシャンじゅうに広めさせたのであった。