鳩司によれば、旦那さまの葬儀は菊臣さまが取り仕切る形で行われたらしい。私にはそれも腹立たしかった。

なぜ寒菊さまでないのだ。血の繋がりがないからか。それにしても、ここを継ぐのは寒菊さまなのであろう。なぜそこまで認めながら、こうもねちねちと否定するのだ。

 「まず、俺が一助さまに話を聞いてくる」と鳩司はいった。

 「本当に乗り込むのかい」と帖が情けない声を出す。

 「俺が一等安全だろう。鳩なんてごろごろいる、一羽迷い込んだくらいで殺すような人たちでもないだろう」

 「気づかれたら終いだよ」と私は警告した。「鳩司、それなりに向こうの人と接点があっただろう」

 「お前さんだって人間ならわかるだろう、人間は人間の變化にこそ敏感だが、ほかの種族の變化には疎いものだ」

 「鳩司はなにか變化したのか」

 「いいや、俺はずっと俺だよ。だがな、變化したことに気づかなければ、變化していないことにも気づかないんだよ。つまり、人間は鳩なんぞに関心がないんだ」

 実際には斯くも個性的だというのに、と彼はへらりと笑った。

 「とにかく、まずは一助さまから情報を得ることだ」

 「私は鳩司が戻るまでなにもできないのか」

 「なにも知らずに突っ込んでいっても怪我をするだけだ。情報を得るのと準備を怠っては如何に優秀な戦士も怪我をするんだ。なに、ちといって戻ってくるだけだ、そんなに時間もかからない」

 「お前ら正気か?」と帖はやはり意気地がない。

 「お前らが怪我して戻ってくれば、治すのは俺だろう」

 「怪我なんて勝手に治る」と私は答えた。

 小さな怪我なら、父も繰り返し負った。私はそのたびに慌てたが、こんなのは怪我でもないと父はいった。その言葉の通り、父はなんでもないように過ごしていた。

私は父の娘であることに恥じ入るような女には、そんな人間にはなりたくない。武家の長子ともあろう私が、怪我や傷を恐れていてどうする。

今でこそ全て失ったが、全身を通う血はあの勇敢な武士へ繋がっている。詛っても誇っても断ち切れぬ、厳かな紲だ。