五年前に初めて会ったとき、藍一郎さんは十五歳、菊臣さんは十二歳だった。私が十七歳だったものだから、二人は義理の弟ということになった。

 私は藍一郎さんに対して秘め事を持っていたが、出会いから三年で散った。

 寒菊という名は、名を尋ねられても答えられなかった私に、久菊さまが下さったものだ。

呼気の見える寒い日の、屋敷へ向かう道の途中のことだった。「今日はこれ随分寒いね」と久菊さまはいった。

そして「君、名前は?」と尋ねられ、私は首を振ることしかできなかった。「では寒菊だ」と彼は大して迷わずにいった。「冬に咲く菊のことだよ。小さいけれども、寒さに強いんだ」

 菊臣さんは私を「兄上」と呼んだ。苦しみに似た喜びは甘い火の穂のように揺らめいた。

 ある日、二人の部屋で「寒菊ですか」と菊臣さんはいった。「寒菊というのは、父が息子につけたかった名なのですよ」と。

 「どうしてまた、」

 「それはよくわかりませんが、僕は秋に生まれてしまいましたし、兄上——藍一郎兄さんは陽の沈みきる少し前、空の藍色に濡れた頃に生まれ、その色気が大層美しかったものだからと菊の字もつけられず、寒菊と名づける者がいなかったのです」

 「そうなのですか」

 菊臣さんはふっと笑う。「これ、兄上と出会ったのが冬でなかったら、父はどうしたのでしょうね」と。