出会いは不思議だ。
何年も同じ学校に通って顔を合わせていたのに、卒業すると名前も顔もまったく思い出せない人がいる。
頭の中から完全に消えてしまう人。
せっかく出会ったのに、儚く感じてしまう。
そういえば、通学途中にランニングをしている人とすれ違ったことがある。
数珠つなぎに落ちる汗を輝かせながら、凍える風にも負けないひたむきな姿だ。
どこの誰だか知らないけど、昨日のことのように思い出せる。
日が暮れるまで遊びまわっていた幼い頃にも出会いはあった。
それは人じゃないけど、滑り台とベンチしかない小さな公園で砂遊びをしていたとき。
おもちゃのザルに砂をたくさん入れて力いっぱいふと、ほとんどの砂はサラサラとザルの目をすり抜けて落ちていくのに、こぼれ落ちずに残るものがあった。
光に当てるとキラキラと輝くなにかの欠片だったり、珍しい形の小石だったり、木屑でも興味を引けば宝物になった。
あとからそれはただのガラクタだと気づいても、なかなか捨てられない。反対に、これは宝物だから大切にしようと決めたのに、数日で興味をなくすものもあった。
この違いはなんだろう。
ふと立ち止まると日の光が私の背中を押して、長い長い影をつくっていた。
影の先にはまっすぐにのびた長い道が見え、トボトボと歩いてきた後ろにも道がある。
目の前が未来で振り向けば過去だとしたら、多くの人やものと出会い、別れていった道が続いている。
あの人は今、何を見てどんな話をしているのかな。
急に懐かしさが込みあげてくると泣きたくなる。
私は素直な人間じゃなかった。それなのに温かい手を差し伸べてくれた人たちがいる。
なんの関わりもなく過ぎ去って、記憶に残ることなく私の心をすり抜けていった人もたくさんいる。
簡単に忘れてしまう人と忘れられない人。
心に残るものと残らないものの違いはなんだろう?
「ああ、もうっ」
ゴチャゴチャ考えても答えなんて出てこない。
今日は卒業式。
高校生活もこれでおしまい。
一八歳の私はもっと大人になってるはずなのに、なにひとつかわっていない。
ひとりぼっちだから、すぐにくだらないことを考えてしまう。
大きく息を吸って天を仰いだ。
初夏の爽やかな風の中で、子どものように目を輝かせて笑う、水樹奏人を思い出す。
白く細い指を、鏡のように輝く青空にかざして笑う人。
いつだって私のことを気遣い、淡く優しい日差しに包まれている先生だった。
地面しか知らない私を変えてくれた、大切な人。
春は空から地上に向かって咲いているかのような桜に感動して、夏はおいしそうな雲をおかずにお弁当を食べて、秋は一緒に月を見て、冬には……。
目から一筋の光がこぼれ落ちた。
「バカだな……私は」
目を閉じると、爽やかな風が私の頬をくすぐり去っていった。
水樹との出会いも長い人生の中では、爽やかに過ぎ去る風と同じぐらいの時間だったかもしれない。
それでも忘れられない人。
大切な出会い。
足音がするとつい振り返ってしまう。
何年も同じ学校に通って顔を合わせていたのに、卒業すると名前も顔もまったく思い出せない人がいる。
頭の中から完全に消えてしまう人。
せっかく出会ったのに、儚く感じてしまう。
そういえば、通学途中にランニングをしている人とすれ違ったことがある。
数珠つなぎに落ちる汗を輝かせながら、凍える風にも負けないひたむきな姿だ。
どこの誰だか知らないけど、昨日のことのように思い出せる。
日が暮れるまで遊びまわっていた幼い頃にも出会いはあった。
それは人じゃないけど、滑り台とベンチしかない小さな公園で砂遊びをしていたとき。
おもちゃのザルに砂をたくさん入れて力いっぱいふと、ほとんどの砂はサラサラとザルの目をすり抜けて落ちていくのに、こぼれ落ちずに残るものがあった。
光に当てるとキラキラと輝くなにかの欠片だったり、珍しい形の小石だったり、木屑でも興味を引けば宝物になった。
あとからそれはただのガラクタだと気づいても、なかなか捨てられない。反対に、これは宝物だから大切にしようと決めたのに、数日で興味をなくすものもあった。
この違いはなんだろう。
ふと立ち止まると日の光が私の背中を押して、長い長い影をつくっていた。
影の先にはまっすぐにのびた長い道が見え、トボトボと歩いてきた後ろにも道がある。
目の前が未来で振り向けば過去だとしたら、多くの人やものと出会い、別れていった道が続いている。
あの人は今、何を見てどんな話をしているのかな。
急に懐かしさが込みあげてくると泣きたくなる。
私は素直な人間じゃなかった。それなのに温かい手を差し伸べてくれた人たちがいる。
なんの関わりもなく過ぎ去って、記憶に残ることなく私の心をすり抜けていった人もたくさんいる。
簡単に忘れてしまう人と忘れられない人。
心に残るものと残らないものの違いはなんだろう?
「ああ、もうっ」
ゴチャゴチャ考えても答えなんて出てこない。
今日は卒業式。
高校生活もこれでおしまい。
一八歳の私はもっと大人になってるはずなのに、なにひとつかわっていない。
ひとりぼっちだから、すぐにくだらないことを考えてしまう。
大きく息を吸って天を仰いだ。
初夏の爽やかな風の中で、子どものように目を輝かせて笑う、水樹奏人を思い出す。
白く細い指を、鏡のように輝く青空にかざして笑う人。
いつだって私のことを気遣い、淡く優しい日差しに包まれている先生だった。
地面しか知らない私を変えてくれた、大切な人。
春は空から地上に向かって咲いているかのような桜に感動して、夏はおいしそうな雲をおかずにお弁当を食べて、秋は一緒に月を見て、冬には……。
目から一筋の光がこぼれ落ちた。
「バカだな……私は」
目を閉じると、爽やかな風が私の頬をくすぐり去っていった。
水樹との出会いも長い人生の中では、爽やかに過ぎ去る風と同じぐらいの時間だったかもしれない。
それでも忘れられない人。
大切な出会い。
足音がするとつい振り返ってしまう。