「ここは信好殿と頼宣殿の言う通りになさいませ。姫様、冷静におなり下さい。中に何があるか分からぬのですぞ。今ここで、拙者等が姫様を失う訳にはいきませぬ」
わらわは総介の覇気と有無を言わさぬ言葉に圧倒され、閉口する。
目からも強く「行くな」と訴えられ、わらわは「分かった」と自分の意見を取り下げる他なかった。
そして登ろうとはしごに足をかけている信好と頼宣に「頼む、内から開けてくれ」と告げた。
信好達は言われるまでもありませぬと言う顔で「御意」と端的に答えると、足軽にタッタッと登り、ひょいと塀の向こう側に消える。
二人の姿が消えて間もなく、ギイイと軋んだ音を立てながら、頑として開かなかった扉が開いた。
そうして険しい顔をした信好と頼宣が顔を現してから、速く安堵したくて、隙間からするりと城内に入り込んだが。
目の前に広がる城内の光景は、決して安堵できるものではなく。覚悟を作らず、軽率に飛び込んだ事に後悔した。
だが、後悔しても遅すぎる。呼吸が不自然に止まるばかりか、どんな言葉でも形容し難い状態に陥った。心がバラバラに砕き壊され、目の前の光景に戦慄する。
後ろの家臣達も、急いで城内に足を踏み入れるが。直ぐさま同じ状況に陥った。ただ一人、佐助だけが「馬鹿な!」と声を荒げる。
わらわ達の目の前に広がった光景は、惨憺な物だった。
皆、地面に伏している。それもただの地面ではない、敷き詰められた砂利が、朱殷色に染まった地面だ。
手前に居る者だけではなく、遠くで歩いていたであろう家臣も。何かを話していたであろう家臣も。皆、朱殷色に染まった地面にバタリと伏していた。
わらわはよたよたとおぼつかない足取りで歩き、一番手前に伏していた家臣に歩み寄る。
そしてその家臣の体を起こそうとするが。体はぞくりとする程冷たくなっており、その冷たさに戦き、手をバッと引っ込めてしまう。
慣れたもののはずなのに。血を見るのも、人が死ぬのを見るのも慣れたはずなのに。
わらわはキュッと痙攣する唇を堅く真一文字に結んでから、もう一度手を伸ばし、冷たくなった体にゆっくりと触れ、ごろんとひっくり返した。
そしてわらわ達は、その家臣の傷に愕然とした。
刀傷、とも言えるが。刀傷にしては、斬られ方が深すぎるのではないか?
わらわは総介の覇気と有無を言わさぬ言葉に圧倒され、閉口する。
目からも強く「行くな」と訴えられ、わらわは「分かった」と自分の意見を取り下げる他なかった。
そして登ろうとはしごに足をかけている信好と頼宣に「頼む、内から開けてくれ」と告げた。
信好達は言われるまでもありませぬと言う顔で「御意」と端的に答えると、足軽にタッタッと登り、ひょいと塀の向こう側に消える。
二人の姿が消えて間もなく、ギイイと軋んだ音を立てながら、頑として開かなかった扉が開いた。
そうして険しい顔をした信好と頼宣が顔を現してから、速く安堵したくて、隙間からするりと城内に入り込んだが。
目の前に広がる城内の光景は、決して安堵できるものではなく。覚悟を作らず、軽率に飛び込んだ事に後悔した。
だが、後悔しても遅すぎる。呼吸が不自然に止まるばかりか、どんな言葉でも形容し難い状態に陥った。心がバラバラに砕き壊され、目の前の光景に戦慄する。
後ろの家臣達も、急いで城内に足を踏み入れるが。直ぐさま同じ状況に陥った。ただ一人、佐助だけが「馬鹿な!」と声を荒げる。
わらわ達の目の前に広がった光景は、惨憺な物だった。
皆、地面に伏している。それもただの地面ではない、敷き詰められた砂利が、朱殷色に染まった地面だ。
手前に居る者だけではなく、遠くで歩いていたであろう家臣も。何かを話していたであろう家臣も。皆、朱殷色に染まった地面にバタリと伏していた。
わらわはよたよたとおぼつかない足取りで歩き、一番手前に伏していた家臣に歩み寄る。
そしてその家臣の体を起こそうとするが。体はぞくりとする程冷たくなっており、その冷たさに戦き、手をバッと引っ込めてしまう。
慣れたもののはずなのに。血を見るのも、人が死ぬのを見るのも慣れたはずなのに。
わらわはキュッと痙攣する唇を堅く真一文字に結んでから、もう一度手を伸ばし、冷たくなった体にゆっくりと触れ、ごろんとひっくり返した。
そしてわらわ達は、その家臣の傷に愕然とした。
刀傷、とも言えるが。刀傷にしては、斬られ方が深すぎるのではないか?



