「まあのぅ、その考えも悪くはないぞぉ。しかしのぉ、いつまで経っても脅威に怯える暮らしを強いられるぞよぉ。いつまでも守りに回っていれば、潰されるのがこの世の理ぞぉ」
朗らかな声だが、ひどく口調は淡々としている。そしてわらわを貫く瞳も、冷酷な眼差しであった。ピリピリとした緊張感が襲い、ゾクリと冷や汗を感じる。
やはりとんでもない武将じゃ。公家の格好をしてはいるが、その心は武士である事を忘れてはおらぬ。公家侍だからと侮る事は、誰も出来ぬであろう。
目の前にいる今川治部大輔義元は、殿と肩を並べる程のれっきとした武士じゃ。
わらわはじわりと汗ばむ手で堅く拳を作り、気持ちを整える。
落ち着け、千和よ。空気に飲まれるでない。わらわだって一国を背負う姫ぞ。ここで臆する訳にはいかぬであろう。
「何もわらわ達でなくとも、治部殿にはお味方が大勢ありましょう。わらわ達では、とてもお役には立てぬと思いまするが」
破顔しながら告げると、今川の顔が再びにこやかなものに変わり「何を申すかぁ」と穏やかになった。
「こちらに戦姫が加われば、一騎当千と言うものよぉ。それに、仕える者達も実に優秀だと聞き及んでおるぞぉ」
扇でパタパタと煽ぎながら、わらわの後ろに控えている総介を見据える。
「戦姫を守護する双龍であるとなぁ。今は一人しかおらぬ様じゃがなぁ」
わらわはその言葉に「もう一人は所用にございまして」と答えようとしたが。先に「まぁ、そんな事はどうでも良き事じゃわ」とぶっきらぼうに言い放たれた。それに、わらわは慌ててキュッと唇を一文字に結ぶ。
そしてパタパタと扇を煽ぐ手が止まり、ピシッと鋭い音を立てさせて扇を閉じた。
「どうじゃ、美張の戦姫よ。共に織田を討つと言う話は悪くない事であろう?」
急き立てる様に問われるが。
どうすれば良いのじゃ。今川と結託して良いものか、織田を突いて良いものなのかと、自分の頭に膨大な数の思考が乱雑に並ぶ。
すると難色を示し続けるわらわに業を煮やしたのか、「戦乱の世と言うのはのぉ」と苛立った声が今川から発せられる。
「甘い事ばかりを考え、甘い事ばかりを申す奴ほど討たれやすい。守りに重きを置き、攻めない奴もまた同じ」
底冷えした声で、ハッキリと真実を突きつけられ、わらわは言葉に詰まる。
朗らかな声だが、ひどく口調は淡々としている。そしてわらわを貫く瞳も、冷酷な眼差しであった。ピリピリとした緊張感が襲い、ゾクリと冷や汗を感じる。
やはりとんでもない武将じゃ。公家の格好をしてはいるが、その心は武士である事を忘れてはおらぬ。公家侍だからと侮る事は、誰も出来ぬであろう。
目の前にいる今川治部大輔義元は、殿と肩を並べる程のれっきとした武士じゃ。
わらわはじわりと汗ばむ手で堅く拳を作り、気持ちを整える。
落ち着け、千和よ。空気に飲まれるでない。わらわだって一国を背負う姫ぞ。ここで臆する訳にはいかぬであろう。
「何もわらわ達でなくとも、治部殿にはお味方が大勢ありましょう。わらわ達では、とてもお役には立てぬと思いまするが」
破顔しながら告げると、今川の顔が再びにこやかなものに変わり「何を申すかぁ」と穏やかになった。
「こちらに戦姫が加われば、一騎当千と言うものよぉ。それに、仕える者達も実に優秀だと聞き及んでおるぞぉ」
扇でパタパタと煽ぎながら、わらわの後ろに控えている総介を見据える。
「戦姫を守護する双龍であるとなぁ。今は一人しかおらぬ様じゃがなぁ」
わらわはその言葉に「もう一人は所用にございまして」と答えようとしたが。先に「まぁ、そんな事はどうでも良き事じゃわ」とぶっきらぼうに言い放たれた。それに、わらわは慌ててキュッと唇を一文字に結ぶ。
そしてパタパタと扇を煽ぐ手が止まり、ピシッと鋭い音を立てさせて扇を閉じた。
「どうじゃ、美張の戦姫よ。共に織田を討つと言う話は悪くない事であろう?」
急き立てる様に問われるが。
どうすれば良いのじゃ。今川と結託して良いものか、織田を突いて良いものなのかと、自分の頭に膨大な数の思考が乱雑に並ぶ。
すると難色を示し続けるわらわに業を煮やしたのか、「戦乱の世と言うのはのぉ」と苛立った声が今川から発せられる。
「甘い事ばかりを考え、甘い事ばかりを申す奴ほど討たれやすい。守りに重きを置き、攻めない奴もまた同じ」
底冷えした声で、ハッキリと真実を突きつけられ、わらわは言葉に詰まる。



